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最近読んで凄かったのが 「手紙、栞を添えて」辻邦生 水村美苗 と 「恋の花詞集」橋本治。 前者はこのレベルの高い二人のあいだでかわされた(もちろん人目にふれるのを承知で……だって新聞連載だったんだから)文学談議の往復書簡― 。 後者は「青葉茂れる桜井の」― 明治三十二年から昭和四十年の「霧深きエルベのほとり」までのいわゆる歌謡曲、ラブソング、流行りうた……を解釈したものである。 二冊ともうなるしかない、というか、久しぶりにサビた脳みそをフル回転させてもおっつくかどうか、というカンジで、おフロに入ったあとのような、きれいにみがいて余分な汚れをおとして油をさしたような、というか(こういう本にぶつかった時は、お酒が飲める人がつくづくとうらやましいと思う)本当に久しぶりにキモチ良かった〜、あー、快感、だったですね。 二冊とも、あきれるほど文章がうまく、内容以前に文体のコクだけでもう満足しちゃえるのだけど内容もまた凄いのだ。 なにせ二人の文学談議はなんと「宮本武蔵」から始まるのよ。 そうしてプルーストやトーマス・マンやツルゲーネフにはさまれて「ハイジ」や「若草物語」や「高慢と偏見」といった女の子もの≠ェ堂々と登場するのです。(「高慢と偏見」はタイトルはいかめしいけど少女小説です。なにせ頭の回転の早い、ユーモアとウィットに富んだ女の子が男たちをやっつける話なんだから) そうしてそのあいまに文学とはなにか、本とは何か、本を読むとはどういうことか、という図書館員がさけて通れない話題が乱れ飛ぶのよ。うっわ〜、ですね〜。 でもって橋本治のも、流行歌、という狂言まわしを使って、明治以降、日本政府の作ってきた近代国家というもの、を、それと時代と民衆の変化、を鮮やかにくっきりと、そういうものを見たことがない世代にもくっきりと思いうかべられるくらい描写してくれているのよ。ま、そんなのはいつも通り、ではあるんだけどやっぱり腕の良いマジシャンのマジックを口をあけて感心してみているように、何度みても口をあいてしまうんですよ、私は― 。 二冊とも図書館員とフェミニズムにキョーミのある人は読むべし。
テキストファイル化 中川里美
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