98/03


           
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 この時期になると必ず買うことにしている雑誌がある。学一年生四月号』(小学館)。
 雑誌構成は、前半部に人気キャラの情報とマンガやクイズ。中間部に小学校訪問記と授業内容の紹介やエデュティメントクイズ。最後部に「ここからはおかあさんがよむページです」という、親向けの記事(いまどき「おかあさん」だけ?)。これはほぼ毎年同じ。子どもの好きそうなものから始めて、その勢いで小学校記事になだれこむのやね。付録もさして変わらない。例えば去年と今年では大型付録四点の内、全く同じといっていいものが三点。「かんじはやおぼえかるた」「キラキラ・ペンケース」「たまごいれゲーム」。最後の一点は「名探偵コナンの貯金箱」から、「ポケモンスタンプ・コンプリート」に。これから小学生になる子どもに「コンプリート」はないだろうというなかれ。すでにTVゲームの攻略本タイトルには頻繁に使われていて、子どもにはおなじみなのだ。また、知らない子どもも知っていていい単語であると『小学一年生』は判断していると考えても面白い。あと、プリクラシールが付いた。本文記事では、学校訪問で、パソコンルームの部分が目新しい。
 表紙に登場する子どもモデルはいかにも子どもらしい子ども笑顔で毎年変わらず私を見つめていてそれは今年も同じやけれど、コンプリートを知っており、プリクラが好きで、パソコンを使う子どもとなっているわけだ。とすれば、私たちがよく思い描いてしまう子どもらしい子ども像(長野開会式の子ども像のような)と「コンプリートを知っており、プリクラが好きで、パソコンを使う子ども」像は乖離しているとみるか、みないのか?
 親向けの小学校情報ということではがんばれ小学一年生』(東京書籍1300円)と小学校なんてコワくない』(ダイヤモンド社1000円)が出た。サブタイトルは前者が「新一年生のための完全マニュアル」、後者が「お母さんのための小学校生活攻略マニュアル」。こうした本の出現(ダイヤモンド社のは九七年から)は、マニュアルの射程に小学校も入った、学校が未知の何かとして親に映るようになったことを示している。現役先生からのアドバイスと先輩ママからのそれと、スタンスは少し違うけど、どちらもが「いじめ対策マニュアル」を載せており、それも我が子がいじめられるだけでなく、いじめることをも含めているのが当然であること。ここにも子どもモデル(像)とイマドキの子どもを巡る「事態」が浮上している。
 わんぱくピート』(リーラ・バーグ作幸田敦子訳浜田洋子画あかね書房1200円)は、四歳のピートのいたずら一杯の日々を描いている。時に大人さえもやりこめるピートの姿はほほえましく大人読者の笑いを誘うだろう。彼の「子ども」ぶりは安定しており、ほぼ完璧。原著は一九五二年刊。五十年前の生身の子ども(英国の(中産階級の))がこうであったかどうかは知らなけど、物語の中の子どもに関していえば、これが成立できたのやね。原著刊は古いのに訳出が新しいものを読む面白さはそこ。続けて三十年前の物語ぼくたちの船タンバリ』(ベンノー・プルードラ作上田真而子訳岩波書店700円)。旧東ドイツ作品なのも興味をそそるけど、大人が子どもに向ける誠実さを巡る主題が面白い。もちろん誠実のためには不誠実さや、いいかげんさや、弱さや、大人というものが何で作られているかを、隠すことはできないわけで、物語はそれこそ誠実にそれを行っている。『ピート』や『タンバリ』をそのまま、現在の日本を舞台に描くことは できないだろう。けどそれを懐かしさに追いやるのもつまらない。現在描かれるものと、それらは乖離しているとみるのか、みないのか?(ひこ・田中)

読書人 1998/03/20