今回は、目前に迫った21世紀をにらみ新人にスポットを当てて、ご紹介させていただこう。 『さるのせんせいとへびのかんごふさん』は、この作品で絵本二作目となる新人・穂高順也の文と、もはやベテランの域に入った荒井良二の絵による絵本である。注射器になれたり、身体測定器になれたり、はたまた胃カメラにもなれる愛らしい"へびのかんごふさん"という発想が、まず楽しい。しかも、文は長すぎず短すぎずリズミカルで、荒井良二の明るく朗らかな絵と絶妙に調和して、ページをめくるごとに楽しませてくれるのだ。いかにも絵本らしい魅力に満ちた作品である。 この文と絵の調和という点で実に惜しいと思うのは『カえるくんのたからもの』だ。自分自身と、そしてそれを取り囲む日常の中の喜びの再発見というテーマをシンプルにまとめた文章は、それだけ読んで十分に魅力的である。が、だからこそ、絵本という表現の場合、それが少しだけうるさくも感じられる。言葉と言葉の隙間をも表現に取り込む短歌界の新星、田中章義の絵本作品であればこそ、可愛いけれど味のある"とりごえまり"の絵ともっとセッションを楽しんで欲しかった。もちろん、彼のような才能が絵本の世界に登場してくれることは大歓迎! 次は歌人ならではの鋭い言語感覚から生まれる、あっと驚くような絵本が創り出されることを今から期待してしまう。 続いて『つれたつれた』は、絵本づくりの達人、内田麟太郎が新人・石井聖岳と組んだ作品だ。何でも釣りまくる釣りの達人のじいさんが、吹雪の浜だろうが、浅い海だろうが、ほんとうにとにかく何でも釣ってしまうという大スケールの物語と、大胆な筆づかいと丁寧な色づかいの絵柄が見事にマッチして、でっかい読後感を与えてくれる絵本である。釣り竿に魚が掛ったときの、あのググッとくる感じが伝わってくる見開き画面の迫力に、ページをめくるのも忘れるほどだ。 そして最後に『サイテーなあいつ』。これは『ゴジラの出そうな夕焼けだった』(河出書房新社)などの作品で知られる花形みつるの児童文学作品である。この作家の場合、文芸の世界では新人ではないのだけれど、純然たる「子供向けに出版された本」は初めてだから、まあ、新しい作家としてここに書く。 で、作品なのだが、さすが花形みつる! すっげえ、おもしろかった。ここには二十一世紀の児童文学の方向が示されていると言っていい。イジメられっ子のサイテーの<ソメヤ>と否応もなくタッグを組むはめになるカオルが感じる、大人や学校や境遇に対する苛立ちは、感情の起伏に合わせたしゃべり言葉で表現される。そして、この語りこそが、この作品の全てなのだ。子供にとって「生きる」ということは、「ぼく」や「あたし」を引き受けることである。それはつまり、境遇の理不尽さに振り回されることと同義なのだ。そうしたことを子供の日常の言葉で、実にあっさりと描いてしまったこの作品に脱帽する。 (甲木善久) <ブックリスト> ★「さるのせんせいとへびのかんごふさん」穂高順也ぶん/荒井良二え/ビリケン出版/1600円 ★「カえるくんのたからもの」田中章義作/とりごえまり絵/東京新聞出版局/1200円 ★「つれたつれた」内田麟太郎文/石井聖岳絵/解放出版社/1500円 ★「サイテーなあいつ」花形みつる作/垂石眞子絵/講談社/1400円 |
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