毎日新聞
子どもの本新刊紹介2000.06

           
         
         
         
         
         
         
    


 今年もまた梅雨がやってきた。
そこで今回は、この時期にふさわしい新刊をご紹介したい。
 まず最初は『雨ふりマウス』である。新興住宅地に引っ越してきた「ぼく」と、彼の家の床下に放置されたままの大きな柳の切り株に宿る「ヤナギの木の精」、そして、3匹の「雨ふりマウス」との交流を描いたこの作品は、竹下文子ならではの、味わいのあるファンタジーだ。巧みな日本語を連ねることによって創り出された、物語全体に漂うしっとりとした雨の匂いが、この作品の最大の魅力である。
 さて、次の富安陽子「ムジナ探偵局なぞの挑戦状」も、梅雨から夏にかけての季節感を巧みに物語に取り込んだ作品だ。古本屋を営みながら、幽霊や妖怪など風変わりな事件を専門に扱う「ムジナ探偵」シリーズの二作目に当たるのだが、今回もまた、押しかけ助手・源太少年とのとぼけたコンビネーションが楽しい。探偵物だからストーリーを書くことはできないが、標題ともなった第二話の密室での泥棒の話もさることながら、第一話での幽霊の身元調査も妙に生活感がにじみ出ていて印象深い。
 続いての五味太郎「とまとさんにきをつけて」は、友だちが遊びに来てくれたような気持ちにさせてくれる絵本である。ページをめくるとかわいい「とまとさん」がやって来てくれるのだが、自己紹介のあと、いきなりグイグイと近づいて来て、「かわいい!」と言ってとか、変な顔したりとか、黄色くなったりとか、ものすごくマイ・ペースに自己主張を繰り出してくる。で、帰るときも突然なわけ。本を閉じた後も「とまとさん」のかわいい存在感が胸に残り、また会いたくなって思わずページをめくってしまうパワフルな絵本である。同シリーズには他にも「かえるくんにきをつけて」「テレビくんにきをつけて」があり、やはり、その存在感は強烈だ。退屈な雨の日に、誰を友だちにするかは悩むところである。
 一方、酒井駒子「ぼく おかあさんのこと…」は、幼い男の子の、おかあさんへのあふれる気持ちを描き出した繊細な絵本だ。うさぎの男の子が腕組みをして考え込んでいる表紙をめくると、「ぼく おかあさんのこと…キライ」とひとりごと。そうして、いろいろキライな理由をあげていき、彼はお別れをする決心をする。でも…、一場面をおいた後、男の子は再びドアを開ける。バタンと閉まるドアの切なさと、おかあさんの胸に飛び込む切なさという、二つの種類の切なさを実にみごとに表現した傑作だ。
 おしまいは、梅雨空の向こうに待つ夏の絵本、「きつねのぼんおどり」である。突然の雨のせいで狐の盆踊りに加わった「ぼく」の幻想的なひとときを、山下明生の静かな文と、宇野亜喜良の凛とした絵の調和によって、はかなく、美しく描き上げていく。これもまた、素晴らしい絵本である。(甲木善久)

<ブックリスト>
★「雨ふりマウス」竹下文子・文/植田真・絵/アリス館/1200円
★「ムジナ探偵局なぞの挑戦状」富安陽子・作/おかべりか・画/童心社/1200円
★「とまとさんにきをつけて」「かえるくんにきをつけて」「テレビくんにきをつけて」五味太郎・作/偕成社/各800円
★「ぼく おかあさんのこと…」酒井駒子文・絵/文溪堂/1500円
★「きつねのぼんおどり」山下明生・文/宇野亜喜良・絵/解放出版社/1600円