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今月最初の一冊は、節分にちなんだ絵本『おにはうち!』である。園庭の隅の鉄棒の上から、子供たちの遊ぶのをいつも見ている男の子。この子を野球に誘ったら、走る走る、ジャンプする。そして、矢のような送球をする。このスーパーマンのような活躍をする男の子、実は鬼の子だったから、豆撒きすると逃げてしまう。中川ひろたかのリズミカルな文と、絶妙な空間処理によって緩急の動きを、さらには登場人物の感情すらも表現してしまう村上康成の絵との調和が美しい。 さて、次なる一冊は『ソラマメばあさんをおいかけろ』である。観察用に学校からもらったソラマメが、奇妙なことに家を抜け出し、おばあさんに化けてデパートにいる。それに気づいた少年タンタは自分のソラマメを取り返すべく、姉のカオルと一緒に追跡を開始する、というシンプルなストーリーの絵童話なのだが、細やかな描写の積み重ねによって実に濃厚な作品世界を味わせてくれる。「おろし金」をはじめとする小道具の使い方の上手さ、そしてなにより、端役に到るまでの登場人物たちの存在感が魅力である。 続いては『あしたうちにねこがくるの』だ。タイトルの通り、ねこをもらう前日のドキドキを描いた絵本で、ページをめくる毎に膨らんだりしぼんだりしていく「わたし」の想像に引き込まれていく。静謐で、ダイナミックで、そのくせ可愛いらしさを感じさせるのは、石津ちひろの文でもあり、ささめやゆきの絵でもある。この渾然一体感は特筆に価する。これぞ絵本!と言いたくなる。もちろん、それを演出したのは装丁家・羽島一希の妙技であり、本当にこの本、表紙から見返し、裏表紙に到るまで、さり気なく丁寧に造り込まれているのだ。表紙を見ているだけで一〇分は楽しめる絵本など、めったにない。 そうそう猫といえば、『おりこうねこ』も楽しい絵本だ。飼い主のフォードさんからなかなかエサをもらえない猫のシマシマは、ある朝、自分で猫缶を開けて食べる。それがきっかけとなり、カギとキャッシュカードを持たされるようになったシマシマは、これまで知らなかった楽しみと、同時に、苦労も背負い込まされるのだが、結局は一番りこうな生き方に辿り着く。この絵本を読むと、どうして猫がいつも寝てばっかりの生き物になったのか、よーく分かる。シマシマの表情の変化に思わず笑いを誘われる、猫好きは必見の一冊だ。 最後の『いってかえって星から星へ』は、ありそうでなかったタイプの仕掛け絵本である。画面の上下に文章があり、上の文章に従って終りのページまで行くと、今度は上下を逆にして、下の文章を読み進め戻って行くという趣向だが、折り返しを過ぎると確かに別な絵に見えるから不思議なのだ。絵本に触れるとき、人は無意識に文章に枠取られ絵を見ている、ということをこの作品から改めて知らされた気がする。(甲木善久) <ブックリスト> ★『おにはうち!』中川ひろたか・文/村上康成・絵/童心社/1300円 ★『ソラマメばあさんをおいかけろ』たかどのほうこ・作/文化出版局/1400円 ★『あしたうちにねこがくるの』石津ちひろ・文/ささめやゆき・絵/講談社/1500円 ★『おりこうねこ』ピーター・コリントン作・絵/いずむらまり・訳/徳間書店/1500円 ★『いってかえって星から星へ』佐藤さとる・文/田中清代・絵/ビリケン出版/1600円 |
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