この頃の新人作家の中で、最も可愛いどうぶつの絵本を描いているのは、どいかやだと思う。『チップとチョコのおでかけ』の続編『チップとチョコのおつかい』も、もちろん、そうした絵本である。色鉛筆を使った丸みのある線と、やわらかいパステルのトーン。オーソドックスでいながら、それでいてきちんと個性を感じさせてくれる配色と構図は、注目に値する。おかあさんの手作りおやつの材料を買いに行くおつかいの物語を楽しんだ後も、その絵の魅力によって、くり返しページをめくりたくなる。
動物といえば、舟崎克彦の『さよなら、あの日の動物たち』は、しんとした味わいを残す素晴らしい随筆だった。代表作である「ぽっぺん先生」シリーズからもうかがえる様に、この作家の動物に対する愛情と造詣は実に実に深いものだが、この本では、そんな彼が人生のあちこちで出会った一匹一羽の思い出を綴っている。なるほど、ぽっぺん先生はこの人自身であったのか、と納得の一冊である。
『きつねのファング』はリアルな動物の絵本だ。初めての冬を体験する若いきつねファングの生活を生態に即して描き出したこの本は、劇的でもハッピー・エンドでもないのだが、だからこそ逆に、自然を主人公にした大河ドラマ「森の動物たち」シリーズの四作目としてふさわしいのかもしれない。このシリーズも、ライオンのリアルな生態を描き出した吉田遠志「動物絵本」シリーズ(ベネッセ)のような大作になればさらに味わいが増すのだろうが、画家が亡くなったとあってはそれは叶わぬ願いかもしれない。
画家といえば、いせひでこさん「グレイの本」の三冊目『グレイのしっぽ』が胸にしみた。アレルギーとてんかんを患い、癌に侵されてしまった愛犬グレイと共に過ごす日々、その最期までを看取ったエッセイとスケッチには、淡々としていながら、なお切実な心情がにじんでいる。一作目『グレイがまっているから』を楽しみながら読み、そして、この本を読んだなら、人間とは違うリズムで生きている命との出会いが痛切なものであることが実感できるだろう。
虫もいのち、花もいのち、動物もいのち、人もいのち。それは観念的なことなんかではなく、生きている体同士の実感に満ちた不思議なのだ。まどみちおが『メロンのじかん』で歌うのは、そんな小さくて大きいこと。詩集のあちこちに散りばめられた言葉と色彩に立ち止まる。そして、歩き出す勇気をもらえる。
<ブックリスト>
★「チップとチョコのおつかい」どいかや文・絵/文溪堂/1200円
★「さよなら、あの日の動物たち」舟崎克彦文・絵/時事通信社/1500円
★「きつねのファング」テサ・ポター作/ケン・リリー絵/今泉吉晴訳/文溪堂/1400円
★「グレイのしっぽ」いせひでこ著/理論社/1400円
★「メロンのじかん」まどみちお詩/広瀬弦絵/理論社/1300円