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十二月ともなれば、本屋さんの児童書コーナーにはクリスマス本が山積みとなる。それはもはや季節の風物詩となり、心浮き立つ年末の風景のひとつに数えられる。ところが、その種類の多さは、一方で、どれを選べばいいのかを迷わせる悩みの種ともなる。そこでアドバイス! なんて、いきなり力むことではないけれど、要するに教育的配慮など置いといて、子供の頃の自分にプレゼントするつもりで、「好きだな」と感じた本を選べばいいわけだ。教育は日常の生活の中でやるもので、本に任せるものではないのである。 だからもし、マウリクンナスの『サンタクロースと小人たち』(偕成社)が気に入ったのなら、それがいい。いとうひろしの『さんにんサンタ』(絵本館)が好きなら、それが一番だ。個人的には五味太郎の『もういちどそのことを、』(寺崎誠三写真/クレヨンハウス)が傑作だと思うけど、もちろんそれは、単に僕の好みです。 さて、そんなわけで今回は、プレゼントされたい、プレゼントしたい新刊をご紹介したい。 まずは『よるくま』。男の子が、夜中に訪ねてきた真黒な小熊と一緒におかあさん熊を探しに行くというストーリーの絵本なのだけれど、その柔らかでとした絵がとても魅力的だ。カラフルでありながら、それを真黒なで囲むことによって真夜中の無音を絵本全体に響かせている。そして、男の子が母親に語り聞かせる形式の文章が、穏やかで安らかな作品世界を満たしてゆく。静かな眠りを誘う「おやすみ絵本」の名作として今後も読み継がれていくだろう。 一方『おつかいけっことこっこ』は大騒ぎの絵本である。勢いのあるクレヨンの線で描かれた「こけこっこ」のけっこ、こっこの二人が奔放に突き進み、それでも最後にはきちんと「いいこね!」と褒められてしまうところが伸びやかでいい。と同時に、この絵本、日本伝統の絵巻物の手法をさりげなく駆使していたり、ぶーおばさんのサイドストーリーを背景に置いたり…、見れば見るほど細やかな芸が随所に光っている。大胆かつ繊細という形容は、この作品にこそふさわしい。 これに対し『ペンペンのなやみごと』は新人作家の爽やかな直球勝負の絵本である。へんてこな黒ぶちウサギのペンペンが、やっぱり「そのまんまがいちばんさ」と自分を受け容れるストレートな物語にも、可愛らしさに擦り寄らない絵柄にも、現在という時代が感じられる。 そうそう、現在といえば『ミカ』も実に今様の児童文学である。PHSも、パソコンも、両親の離婚も出てくるが、そんなディテールが浮ついたものに見えないのは、作品に登場する子供たちの気持ちの在り様が現在だからだ。学校や社会に優しく囲い込まれ、大人と闘いようもなく生き延びることだけを強いられた現在の子供たちの姿が、この物語にはある。オレンジ色の強烈なカバーなどブックデザインも凝っていて本として作り込まれている(余談だが、デザイナー名の下に年齢の載った本は初めて見た)。 <ブックリスト> ★「よるくま」酒井駒子作・絵/偕成社/1000円 ★「おつかい けっことこっこ」浅川じゅん作/橋本淳子絵/偕成社/1200円 ★「ペンペンのなやみごと」オオサワチカ作絵/星雲社/1800円 ★「ミカ」伊藤たかみ作/理論社/1500円 (甲木善久)
毎日新聞1999/12
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