|
児童文学という一つの言葉の下に、実は、かなりさまざまな種類の作品が一括されてしまっているのである。たとえば、いま、手元に3冊の本がある。『龍使いのキアス』(浜たかや、偕成社)と『おさるのおうさま』(いとうひろし、講談社)と『天とくっついた島』(立松和平文・スズキコージ絵、河出書房新社)。どれも、この1、2月に出版された新刊である。 ところが、『龍使いのキアス』は、 679頁もあるのだ。キアスという少女は、アギオン帝国の初代皇帝アグトシャルの夢の世界に 300年間封じ込められたままの大巫女マシアンを救い出そうとする……。と、ファンタジーの粗筋をいってみても、なんのことやらさっぱりわからないだろうけれど、国籍不明の固有名詞や世界の死と再生の物語というあたりに、かの『指輪物語』の影を見てとれる。 かたや、『おさるのおうさま』は、小学1年生くらいでも一人で読めるよという「どうわがいっぱい」シリーズの1冊。大人気『おさるのまいにち』『おさるはおさる』の、いとうひろしの新作。「ぼくは、おさるです。みなみのしまにすんでいます。」と始まると、やっぱり、ちょっとほほえんでしまう。 それから、『天とくっついた島』は、絵本である。とにかく、スズキコージの絵にインパクトがあって、どういう話だったか忘れてしまったくらい。これはもう、そうだよ、たしかに絵本はアートなのだったと納得。 さて、では、この3冊の共通点をのべよ。といわれても、わたし、わかりません。大長編ファンタジーと幼年童話とアートとしての絵本。あらためて考えると、これらがまるで似ていないのにギョッとする。でも、これらは、店頭でも、新聞でも、読書会でも、やがて年表でも1997年の児童文学として並列されてゆくにちがいない。こういうのを思考の制度というのかしら? 制度が個々の作品を不自由にしなければいいけど、と思う。(石井直人)
「図書新聞」第2335号,1997.3.22
|
|