子どもの本を読む

中部経済新聞 1988.01.09

           
         
         
         
         
         
         
     
 絵本のタイプを分けると、ストーリーを味わうものと、場面の展開そのものを楽しむもの、二つになるでしょう。(無論たいていの絵本はその二つの面を併せ持っている訳ですが)
 まず一つ目のタイプから。「いいものもらった」は幼年童話の名手森山京と、佐藤さとる作品の絵でおなじみの村上勉の初顔合わせ。たぬきのおばあさんが孫たちに会いに来ましたが、おみやげが一人分足りません。おみやげを包んでいたふろしきをもらった末っ子だぬき。ふろしきがいろんなものに早変わりして、おばあさんと孫たちの心がつながります。
 「ピアノをひくのはだれ?」(やすいすえこ作)は、八話から成る絵童話集。いもとようこの描く小さな動物たちは「かわいさ」という点では抜群です。母親が女の子に読んであげるのに最適。
 「おじいさんのハーモニカ」(グリフィス作、スティーブンソン絵)は「ふたつの家のちえ子」の今村葦子の訳。一夏おじいさんの元に預けられ、畑仕事をする中で元気になった孫娘。今度は都会の孫娘の家へ、体をこわし生気をなくしたおじいさんがやってきます。人と人とが心を重ねることの素晴らしさが、ペンと水彩の軽妙なタッチの絵の中から浮かび上がります。
 さて、第一のタイプの相対的おとなしさに比べて、第二のタイプは想像力、意外性で迫ります。「ジュリアスはどこ?」(バーニンガム作、谷川俊太郎訳)は、部屋から食堂に来ないジュリアスに、父さんと母さんが代わる代わる昼食を運びます。その度に、「いすとカーテンで家を作ってる」に始まり、ピラミッドに登ったり、アフリカでカバを冷やしたりしているジュリアス。両親の日常的な場面とジュリアスの想像の場面とが奇妙に溶け合って、読む者をひきつけていきます。
 「あまのじゃく」(青井芳美作・絵)は、公募のニッサン童話と絵本のグランプリ入選作。薄茶色の和紙の地に、ややレトロ風の絵。幼時の「あまのじゃくつり」(実はハンミョウの幼虫つり)の体験を、ユーモアと幻想が交錯する不思議な世界に仕上げています。
 「たとえのことば」は五昧太郎の「言語図鑑」の第七巻。これは言葉の展開そのものを楽しむ(そしてもちろん絵の表情を楽しむ)やや井上ひさし的世界。「にんげんのようなライオン」「ねこみたいなライオン」に始まって、ライオンを何かに例えた表現が、次から次へと繰り出されます。一ページずつじっくりと楽しむもよし、ワワワワワ...とどんどんめくっていくのもよし、の一冊です。
 最後の「急行『北極号』」(オールズバーグ絵・文)は第一と第二タイプの折衷型。この場合は両方の良さを味わうことができるという意味で。クリスマスイブの夜、「僕」の家の外に止まった蒸気機関車。乗り合わせた子どもたちとともに、この「北極号」は一路北極点に向かいます。そこにはクリスマスプレゼントを作る工場があり、サンタクロースたちはここから出発するのです。暗さを基調としたパステル画に、北極号や北極点の町の灯が浮かび上がる光景は、幻想から神秘の世界へと誘ってくれます。訳は村上春樹。(藤田のぼる
テキストファイル化山本京子