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子どもの本にも季節感はある。「なつのかわ」は、あの写真絵本の極地ともいうべき名作「はるにれ」の姉崎一馬による写真絵本。この夏出合わせたい一冊だ。 「はるにれ」の美しさがなにやら天上的、モーツァルト風だったのに比べ、こちらは帯に「森から海へ。川の旅がいまはじまる」とあるように、源流の森の風景から、次第に開け、ついには海へというように、よりストーリー的、ベートーベン風とでもいえようか。見開きの左右の写真のバランスにやや不満があるが、水に映る光が直接心に伝わってくるようだ。 「草原情歌」は川の旅ならぬ<音楽の旅>三巻のうちのアジア編。これも写真をふんだんに使いながら、各国の音楽と、それを伝えてきた人々の暮らしぶりを紹介している。 「迷宮の島―怪物ミノタウロスのなぞ」(たかしよいち)は、地中海のクレタ島に伝わるミノタウロス伝説のなぞに迫る。頭は牛、体は人間という怪物ミノタウロスが、迷宮の奥深くに住み、人間の子供を食べるという。この伝説に挑んで、迷宮の実在を証明した考古学者たちの仕事。そうした成果の上に、著者はミノタウロス伝説の発生を推理する。想像力は時間の旅をも可能にする。 さて、一気に時間や空間を飛び越えるのはなんといってもファンタジーの領分だ。「トランプの中の家」(安房直子)「とび丸竜の案内人」(柏葉幸子)と、ファンタジーの代表的な二人の書き手の近作がそろった。 「トランプの中の家」は、森の中でウサギに出合った女の子が、ウサギの持っていたトランプの絵の世界に迷い込む。「とび丸竜の案内人」では、マルメ(マルメロ=セイヨウカリン)を秋以外に食べてはいけないというタブーを破った女の子の前に、竜が現れ、竜の世界の秋の太陽を探し出すための案内人にさせられる。いずれも道具立てはややバタ臭いが、さすがにしっかりと日本のファンタジーに仕立てている。 さて、「春休み少年探偵団」は、映画化された「ぼくらの七日間戦争」の宗田理の作品。兄と妹の前から突然母親がいなくなり、やがて父親も出張先で姿を消す。二人を追って、やがて四国に渡る兄妹。全体としてはエンターテイメントのつくりだが、たとえば母親がいなくなった時、「夫が殺した」といううわさを聞き、本当にそうかもしれないと少年が思うあたり、ちょっと怖い。 少年は真相を明らかにしようと、母の知人たちを訪ね歩くのだが、事実が出てくるほどに父や母への不信が増していく展開は、児童文学にはないものだ。そしてむしろ、そうした親子関係は今の子どもたちにある種のリアリティーをもって迫るのではないか。 「ノンフィクション名作選」は、講談社の<少年少女日本文学館>のうちの一冊。向田邦子、椎名誠、植村直己、沢地久枝など魅力に富む顔ぶれで、ここでも一般の児童文学とは違った切り口を楽しむことができる。そして、ここでもしばしば<旅>がテーマになっていることに気付かされる。椎名誠の作品は「岳物語」の一話で、父と子のつりの旅。植村直己の「朝焼けのゴジュンバ・カン」、そして小泉文夫のフィールドワーク(「人はなぜ歌をうたうか」)など、素材も実に多彩で、"事実"を通してそれぞれの書き手の生きざまが見事に伝わってくる。(藤田のぼる) 「本のリスト」 なつのかわ(姉崎一馬著、福音館書店) 草原情歌〈アジア〉(矢沢寛文、岩淵慶造絵、岩崎書店) 迷宮の島―怪物ミノタウロスのなぞ(たかしよいち作、冬野いちこ絵、あすなろ書房) トランプの中の家(安房直子作、田中槇子絵、小峰書店) とび丸竜の案内人(柏葉幸子作、児島なおみ絵、偕成社) 春休み少年探偵団(宗田理作、角川文庫) ノンフィクション名作選(井出孫六選、向田邦子他著、講談社)
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