子どもの本を読む

京都新聞 1991.1.21

           
         
         
         
         
         
         
    
 近所に二年ほど前にオープンした書店だが、一階が大人向け、二階が児童書、コミック、参考書を集めた子ども向けとなかなかぜいたくなスペースだった。ところが、今年になって二階は閉鎖、一階だけの営業になり児童書は隅っこにほんの申し訳程度にたってしまった。ここ二、三年似たようなことが僕の周りの書店でも何カ所かで起きている。こうした事態に対し、出版社の側では、いわゆるエンターテインメントに活路を見出そうとする傾向が目立つ。それはそれでいいのだが、読んでみても退屈なのが少なくない。
 今回、探偵もの、推理ものをまとめて読んでみたが、総じて初めから予想できる展開、ワンパターンの文章、区別のつきにくい登場人物たちと、大人の読み物の良質のエンターテインメントと比べると、まさに子どもだましといる感じである。そうした中で比較的読めるものを探してみた。
 「はじまりは青い月」の作者新庄節美は、「夏休み探偵団」のシリーズでデビューした作家だが、良くも悪くも“児童文学的”だった前シリーズと比べて道具立ていい、文章のテンポといい、むしろこうした読み物のほうが本領かと思わせる。
 女子高生の愛梨の“おばあ様”は昔回答紅蝙蝠(べにこうもり)としてその名をとどろかせた義賊である。二十五年前に引退したのだが、某国の王子が国のシンボルとも言うべきダイヤを日本の宝石商に盗まれてしまったというのを聞いて、これを取り戻すのを引き受ける。そして、久しぶりに仕事に当たって孫の愛梨を跡継ぎに指名する。
 一方、この宝石商(実は宝石泥棒)に警備を頼まれたのがかつての名探偵にして紅蝙蝠のライバルだった武市大五郎で、彼はやはり孫の六平を助手に連れていこうとする。ところが、本番の日になって紅蝙蝠も武市も体を壊して行けなくなり、愛梨と六平という二代目同士の対決となるのである。
 泥棒と探偵という両極端ではありながら、ルールと品性を重んじる紅蝙蝠と武市、そしてそれを受け継ごうとする愛梨と武市。ちょうど映画「ファミリービジネス」を思い出させる設定と展開で、いわば古き良き価値観と新しい感覚とが程よくマッチした楽しめる読み物に仕上がっている。この本はこの後シリーズ化されるようだが、まずは主役、脇役も含めてそれに十分耐え得るキャラクターと言えよう。
 「ご用だ!ねこねこユーカイ事件」は東京・浅草が舞台で、こちらは主人公みずきのおじいちゃんのおじいちゃんが目明しだったというなんとも“由緒”正しいファミリービジネスである。おじいちゃんの残した荷物を整理しているうちに、十手が出てきたのを見て、みずきはすっかりその気になってしまう。そのみずきが出くわす事件とは猫の行方不明という一見かわいい事件なのだが、実はこれには地上げが絡んでいて、なかなかスリリングな展開になっていく。
 「放火魔のくる夜」はすでにシリーズ化されている<こちらB組探偵団>の十作目。タイトル通り女の子一人を含むB組の四人組が、保険金目当ての放火事件にでくわして、四人のチームワークで事件解決に当たる。また、「ダン警部の24時間」は自分の息子を誘拐された警部の事件解決までのプロセスをハードボイルドといったタッチで追っており、一気に読ませる。(藤田のぼる
「本のリスト」
スカーレットパラソル(1) はじまりは青い月(新庄節美:作 藤原カムイ:絵 講談社)
少女みずき捕物ノート ご用だ! ねこねこユーカイ事件(高橋町子:作 五彩きょうこ:絵 ポプラ社)
こちらB組探偵団 放火魔のくる夜(ボルフ:作 若林ひとみ:絵 偕成社)
ダン警部の24時間(ロデリック・ジェフリーズ:作 武内孝夫:訳 高田勲:絵 学研)

テキストファイル化三浦真弓