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児童文学作品の魅力を決定づけるのは、やはり主人公のキャラクターということが一番だろう。『赤毛のアン』や『トム・ソーヤー』を持ちだすまでもなく、名作といわれる作品には個性的な主人公がいる。そして、この点がきわめて弱いとされてきたのが日本の児童文学であった。理想をいえば、子ども読者からみて、心から共感できて、なおかつちょっとあこがれを感じるような主人公、きわめて難問ではあるけれど、今月はその点でかなりいいところまでいっている二つの作品と出会うことができた。 『小さなスズナ姫』 富安陽子作 (全4冊、絵・飯野和好、偕成社、各1000円) 一冊目の『小さな山神スズナ姫』から、『スズナ山の大ナマズ』『大雲払いの夜』と続き、 十二月に四冊目の『くらやみ谷の魔物』が出て、完結した。 主人公は喜山山脈を司る山神、喜仙大巌尊(おおいわおのみこと)の娘で、「まだ三百歳」のスズナ姫である。五十年が人間の一歳に当たるというから、ほんの小娘なのだが、すでにさまざまな術を身につけ、かつ自立心おう盛な姫である。 この姫が三百歳の誕生日に、自分の名の由来であるスズナ山を譲り受け、独立してそこを治めたいと申し出る。大巌尊からみれば、それはとうてい無理な願いだったが、「スズナ山の木々の葉を、一日で秋の色に染め替えることができたなら」という条件をだす。 山のきつねたちを味方につけたスズナ姫が、見事にこの仕事をやってのける、というのがこの第一巻の概要で、二巻目以降はこの未熟でやや無鉄砲でもあるスズナ姫が、父親とはまったく違ったやり方でさまざまな難問に挑戦していくという、なかなかに胸のすく物語である。 時代設定は現代で、人間による自然破壊への抗議といったモチーフもみられるが、そのあたりが継ぎはぎにならず、神と動物たちを中心とした見事な作品世界を形作っている。 『ママとあたしのサンドイッチハウス』 高山栄子作(絵・伊東美貴、ポプラ社、927円) もうすぐ十歳の主人公実花は、母親との二人暮し。「サンドイッチハウス」というのは、ビルの間にはさまれた自分のアパートに実花がつけた名前で、それはおそらく、さまざまな人やことに「はさまれて」生きる自分のアイデンティティを象徴してもいる。こうした名づけは、向かいにあるいかにもマイホーム風の一戸建てを「クリームシチュー・ホーム」と命名するなど、実花のとくいとするところで、周囲のさまざまな場所に名前をつける名人あった「赤毛のアン」を思い出させる。 物語は、ちょっと頼りない母親とのさまざまなエピソード、そして信頼できそうなおじさんの登場というように展開していくが、この主人公は、大人に対してその欠点も含めて受け入れながら、けなげさを肥大化させていくというパターンには陥っていない。作者独特の語りの文体とともにエネルギーと繊細さを併せ持った、魅力的な子ども像が提示されている。(東京新聞1997.01.26) テキストファイル化秋山ゆり |
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