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進級、進学の四月にちなんでというわけでもないが、今月は「中学生」向けの二冊を紹介したい。この欄は小学生中学年あたりを対象とした本を中心に紹介したいと思いつつ、いい本が少なくて困っているのだが、それとはまた違う意味で、中学生向けとして紹介したい本も少ない。いわゆるヤングアダルト向けの作品や、読みごたえのあるファンタジーなどにはいい作品があるのだが、それらは一部のファンには受けても、あまり読書体験のない中学生には敬遠されるだろう。中学生も読める作品ではなく、中学生にこそ読んでほしい作品、現代の中学生たちの生活感情にフィットした作品−フィクションとノンフィクションから一冊ずづ、そうした作品を探してみた。 『ストーブ戦争!』 ゆうき えみ・作 (ポプラ社、1200円) 中学一年生の冬。学校の石油ストーブは週に一回「給油日」というのが決められていて、「普通に使えば一週間はもつはず」という理由から、石油が切れても補給してもらえないしかけになっている。朝、教室の石油が切れているのを見つけた主人公が、隣の教室から分けてもらってくる。しかし、これが教師の知るところとなって「石油を盗んだ」という話になり、「連帯責任」ということで、このクラスは「三日間ストーブ禁止」という処置を受けることになる。 これがきっかけで、一年生全体をまきこむ「ストーブ戦争」になっていくのだが、スーパーマン的なつっぱり少年が出てきたり、新聞記者の母親が登場したりと、やや宗田理風なタッチの読みものに仕上がっている。だが、ここで語られる事件自体も、教師像にしても、いかにも普通にありそうなリアリティーに満ちており、なおかつそうした中で、一人ひとりの中学生に実際何ができるのか、という問いかけがストーリーから浮かび上がってくる。「おもしろくて、考えさせられる」稀有(けう)な作品といってよい。 『兄姉弟妹(きょうだい)とくらべられても自分は自分』 水井笙子・著、宮本忠夫・絵 (岩崎書店、1262円) 「おとなになること」というシリーズの十冊目で、このシリーズは「ダイエットってなんだろう」「エイズとSTD(性感染症)」など、現代の中高生にとって避けて通ることのできない、さまざまな問題についての問題提起の本といったコンセプトになっている。そうした中で、この本は兄弟間の比較という、言わば古くて新しい問題に光を当てている。 本の中では、親や周囲に自分と兄弟姉妹とを比べられて苦しんでいるさまざま実例を紹介しながら、そうした悩みをどう受けとめたらいいのかが、さまざまな角度から語られる。 印象的なのは、子どもの側の悩みに寄り添いながらも、そこにのめりこまずに、現実的な対処のしかたを見いだしていこうとするフェアな態度というか、語り口で、そうした姿勢自体に、いまの子どもの悩みと向き合っていくヒントが示されているように感じた。 東京新聞1997.04.27 テキストファイル化秋山ゆり |
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