子どもの本

東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    

 かつて(といっても戦前の話だから昔といった方がいいのかもしれないが)、一部の「芸術的童話」は別として、子どものための読みものは少年向けと少女向けに歴然と分かれていた。戦後の児童文学はそうした極端な区別を嫌って、全体として「少年少女向け」を志向してきた。しかし、それによって抜け落ちたものもあるような気がする。特にそれは「少女」の世界において顕著であり、その間隙(かんげき)をぬって隆盛を見せてきたのが、少女マンガと少女向けの文庫だと言えるだろう。
 そうした中で、八〇年代あたりから、明らかに「少女向け」を意識した児童文学作品が出されるようになり、そこにはさまざまな形で「少女たちの今」が投影されている。今回はこうした分野の代表的な書き手の一人である薫くみこの作品と、二十代でデビューした新人の作品とを紹介したい。

 『少女作家は12歳―ナル子、ビックリ!ぬすまれたデビュー作』
薫くみこ・作、西宮さき・絵(ポプラ社、一〇〇〇円)
 タイトルからして男の子はまず手をのばせない雰囲気だが、これはシリーズ四作目で、六年生のナル子が出版社に作品を持ち込んだことがきっかけで彼女の作品が出版され、反響を呼んでいくまでのさまざまなドラマが描かれる。
 この四作目に至って、ようやく本が形となり、書店に出回ることになるのだが、ナル子は自分と同じ年ごろの少女が自分の本を万引するという場面に出くわしてしまう。そして、その少女が学年一と評判の高い優等生・二見茜であることに気づき、がく然とする。
 この二人に加え、ナル子があこがれるコリンこと高見圭司の三人を中心にストーリーは展開するのだが、小学生が本を出版してしまうという、いわばありそうもない設定を中心におくことにより、それによって引き起こされるさまざまなドラマがかえって読者にはある切実さを感じさせる仕掛けになっており、トレンディードラマ風な道具立てはきっちり押さえつつ、自分は自分をどこまで引き受けられるのかという思春期のテーマに迫っている。

 『バイ・バイ―11歳の旅だち』
岡沢ゆみ・作、タカタケンジ・絵(文渓堂、一三〇〇円)
 こちらも六年生、主人公の弓子を含めた四人のグループの話である。この四人は、二人と二人の友人同士が、修学旅行の班をきっかけに親しくなったグループで、弓子にとって真紀は保育園からの親しい友だちだが、プー(風子)とわかばには多少感情的な距離がある。この四人が夏休みに一泊二日の「家出」を敢行することになるのだが、その目的は真紀の失そうした父親を探すことだった。いつもさまざまな「計画」を立てることで満足していた彼女たちが実際に行動をおこすことになったのは、いつもはもっとも慎重なはずの真紀が計画の中心となったこともあるが、どこかで子どもであることに甘えている自分との決別というモチーフが強いように思える。
 新潟から東京に出てくる彼女たちの計画の周到さと甘さのいずれにもリアリティーがあり、同世代の少女たちの共感を呼ぶだろう。 

(東京新聞1997.08.24)
テキストファイル化山本京子