子どもの本

東京新聞 1998.05.24

           
         
         
         
         
         
         
    
 児童文学では、リンドグレーンの『名探偵カッレとスパイ団』とか、フランスのブールリアゲの『プークとオオカミ団』とか、日本でいえば江戸川乱歩の『少年探偵団』とか、子どもたちにある種の<同盟>とでもいうべきグループの活躍を描いた作品が結構ある。最近読んだ岩崎京子の自伝的な作品である『お父さんの足音』(ポプラ社)でも、昭和初期の話として、女の子たちが「少年倶楽部」に連載中の「怪人二十面相」に刺激されて少女探偵団を作り、無線通信ごっこをやって、本当に警察の不審尋問を受けるという場面があった。今月は、仲間が成立しにくい現代の子どもたちの世界に、こうした素材を持ち込んでいる二つの作品を紹介したい。

『ドカンとイッパチ』(那須正幹・作、春樹椋尾・絵 新日本出版社、一五〇〇円)

 なにやら某製薬会社のCMを思い出させるようなタイトルだが(無論、作者はそのことは計算済みだろう)、実際これは作品のキーワードともいえる<合言葉>なのである。第一話の「ブタマン先生をやっつけろ」では、新しく四年生のクラスにやってきた先生がやたらに子どもに<罰>を繰り返し、クラスの雰囲気は最悪になっていく。この時のクラスの何人かの頭に浮かんだのが「ドカンとイッパツ」だった。この学校の子どもたちの間に密(ひそ)かに伝わっている噂(うわさ)があり、それは校内に彼らの悩みを解決してくれる<秘密組織>があり、それを呼び出す合言葉が「ドカンとイッパツ」だというのだ。半信半疑の子どもたちに<組織>からの接触があり、なぜか先生の態度も豹変(ひょうへん)する。三人の六年生(そのうちの一人が一ノ瀬八郎なので、作品タイトルはイッパチ)からなるこの秘密グループが解決を求められる問題は、第二話、第三話とよりハードになっていくが、テレビの「必殺」シリーズを思わせるこの物語の設定は、確かに今の子どもたちにこそこうした<組織>が切実に求められていることを示しているようで、この作者らしい着眼点と感心した。


『パンツの色はパンチの色』(山田理加子・作、宮本忠夫・絵 草炎社、一〇五〇円)
 
 こちらは二年生の子どもたち。主人公のたかあきは、「ああ、つかれた」が口癖の<親友ということになっている>ひでちゃんと二人きりでいるのにうんざりして、仲間を集めようとする。
 仲間になるための入会テストの、一番難しい問題がたかあき自身に当たってしまい、それはクラスで一番こわい女の子の、たえこのパンツの色を見てみんなに教えるというものだった。そんなことをするくらいなら仲間なんかいらないと思うたかあきが、たえこのパンチを浴びながらもテストをクリアーし、最後はたえこも仲間にはいってくるまでの顛末(てんまつ)はなかなかにおもしろい。
 最初に書いたグループ結成のそもそものモチーフも含めて、今の子どもたちの気分といったものがうまくとらえられていて、現代の子どもたちには似合わないように思える「仲間」という言葉を、そうでもないなと感じさせてくれる、独特のリアリティーがある。(ふじた・のぼる=児童文学評論家。)

東京新聞 1998.05.24
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