子どもの本

東京新聞1999.10.24

           
         
         
         
         
         
         
    
「ひみつの小屋のマデリーフ」
フース・コイヤー作、野坂悦子訳
鈴木永子絵(国土社、1200円)
主人公の少女マデリーフの祖母が亡くなったところから物語は始められる。ほとんど会ったこともなく、実感のわかないマデリーフ。ところがマデリーフの母親も、残された父のことは気遣うものの、実の母の死に落胆している様子がない。
死後になって初めて、祖父や叔父や母の口から、祖母のことがさまざまに語られる。若いころ人もうらやむほどの美人だったが、周囲と打ち解けることのなかった祖母。育児で大変なころ、自分だけの小屋を建てて読書にあけくれた祖母。急に家事にうちこむようになり、ごみ一つ落ちているのを許さなかった祖母。そうした祖母の心の軌跡を完全には理解できないもの、夫や子どもたちにすら自らの心情を素直に表現できなかった祖母のやるせなさは、祖母の小屋を受け継ぐことになったマデリーフの心に伝わってくる。
人を理解することの難しさと、だからこそのすばらしさを、児童文学としてここまで描ききっていることに感服した。

「トランクマンとめいれいマン」
一色悦子作、岡野和絵(草炎社、1050円)

舞台は駅長さんと若い駅員が一人という小さな駅で、母親が駅長のしんぺいが主人公である。夏休みの前の日、電車で小学校に通うしんぺいは、駅のホームで大きなトランクを持った男を見かける。男は学校から帰った時もそのままで、次の日もホームベンチに座っている。「トランクマン」と名づけたこの男のことを、電車通学仲間のふみかちゃんに携帯電話で知らせようとしたしんぺいは、番号をまちがえるが、なぜかその電話の相手もトランクマンの話に興味を示す。
物語の後半は、トランクマンが駅にい続けた理由や、しんぺいがひそかに「めいれいマン」と名づけた携帯電話の相手の正体が明らかとなり、一気に展開していく。駅という空間や携帯電話といった小道具をたくみに使いながら、どんな時も心の奥底では他者とのつながりを求めてやまない、人間の心の動きの不思議さが浮き彫りとなっている異色作である。
(ふじた・のぼる=児童文学評論家。「新刊から」も)
東京新聞1999.10.24
テキストファイル化松本安由美