子どもの本

東京新聞1999.12.26

           
         
         
         
         
         
         
    
「うちゅうのはて」
長崎夏海・作、鈴木びんこ・絵(国土社、1000円)

まずは、「夕やけって、すとんって音がする。/と、モトはおもう」という書き出しでひきつける。場所は夕方の公園。二年生のモトは、すべり台の上で美容師の母さんや塾通いの姉さんの遅い帰りを待っている。「すとん」の後、モトの頭に浮かぶ宇宙の果てだ。そのイメージはモトをひどく不安にさせる。しかし、水泳が苦手なのんちゃんが、「水に吸いこまれそうになるのでこわい」というのを聞いて、とてもよくわかってあげられる自分を発見する。「宇宙の果て」という見えないものに感応する子どもの心が、時に他者への理解につながっていく。ラストの舞台はマンションの屋上。モトとのんちゃんが夕方の空に向かって、それぞれに自分の名前を胸の中で名乗り、笑い合う。この場面も見事。この種の作品は時に大人の視点が勝ってしまうことが少なくないが、秀逸な挿絵ともあいまって、この作品の登場人物の心の動きは子ども読者の心にしっくり届くだろう。

「えほん北緯36度線」
小林豊・作絵(ポプラ社、1300円)

絵本を開くと、見返しにちょっと見慣れない地図。よく見ると、北が下になっていて、一番左にある日本はいつもとさかさまの姿だ。「トウキョウ」から横にまっすぐな一本の線が走っており、それをたどると真ん中あたりはパミール高原、一番右は地中海からジブラルタル海峡。これがこの絵本の世界全体のまさに案内図となる。出発は夜の東京、自転車に乗った二人の少年がまっすぐ西に向かう鳥に導かれて、時空を越える旅に出る。西に向かうにつれ、時間は刻々とさかのぼっていき、中国西安の町はまだ少し明るく、中央アジアの果樹に囲まれた村では午後のお茶の時間だ。そんなふうに旅に巡り、東と西が出会うジブラルタル海峡では正午となる。
人間が地図の上に引いた一本の線、緯度という装置によってこんなふうに見えてくる世界のすばらしさ、懐かしさ。タイトルに「えほん」と銘打った作者の思いが前編から伝わってくる。
(ふじた・のぼる=児童文学評論家。「新刊から」も)
東京新聞1999.12.26
テキストファイル化松本安由美