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「天丼一丁、こころ一丁」 上條さなえ作、長野ヒデ子絵(汐文社、1300円) いま、子どもの本で「人情もの」ならこの人という感じの作者だが、この作品も絶妙の味だ。 舞台は埼玉県川口市。四人兄弟の末っ子純の家はそば屋で、天丼(てんどん)が売り物だ。店員の中国人の来さんが病気になり、純の家で一人息子恩くんを一週間預かることになる。初めはいやがった純だが、同じ五年生の「ライオン」くんと生活しながら、自分の家族の暮らしを見直していく。 恩くんが来たとたん服装や言葉づかいが変わる姉たちや、中学校を出たら美容師になりたいという兄など、それぞれにいい味を出しているが、おいしいものを安く提供しようと奮闘する両親の姿が、ことに印象的。 「まじめに働く」ことが、必ずしも割にあわない点を含んでいるとしても、そのこと自体の喜び、深さがユーモラスなタッチの中でしっかりと描かれており、確かなメッセージとして心に迫る。 「夕陽丘分校の七人」 塩野米松作、後藤えみこ絵(フレーベル館、1300円) 岬の西側にあり、夕日が美しいことから、夕陽丘分校と呼ばれる全校で七人という小さな小さな学校。特に困るのは体育の時間だ。 低学年クラスの本間先生は、本校との合同運動会の時、二年生のくじら太がサッカー部をうらやましそうに見ていたことに心を痛め、分校にも「サッカー部」を作ると言い出す。本間先生自身、学生時代女子サッカー部員として活躍した実績があるのだ。 六年生の友紀を除く六人が「入部」するが、なによりも困ったのは、みんなが仲が良すぎて、必死にボールを取り合う、敵をじゃまするという発想がないことだった。「私、でぶだから」と最後まで入部を拒み続ける友紀を含め、七人の個性が見事に描き分けられ、現代版「二十四の瞳」といった味わいも感じさせる。 特に、本校サッカー部との初対戦のシーンは圧巻。「夕陽丘分校シリーズ1」とあり、続編が楽しみだ。 (ふじた・のぼる=児童文学評論家。「新刊から」も) 東京新聞2000.01.23 テキストファイル化松本安由美 |
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