子どもの本

東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
少年詩集の魅力 藤田のぼる
この欄では、なるべく多様なジャンルをカバーしようと心掛けているつもりなのだか、なかなか取り上げる機会がないのが詩集である。子ども向けの詩は(『少年詩』という呼称が一般的だが)出版点数が少ないことに加えて、紹介するにしてもストーリーや登場人物といったところから説明できるわけではないので、こうした場でその魅力をどう伝えるかという点での難しさがある。
少年詩の詩集は、まどみちおや谷川俊太郎、工藤直子といった例外的なケースを除いては、少年詩集を中心的に出している専門的な(言い換えればマイナーな)出版社から出されるのが通例だが、昨年大日本図書から「詩を読もう!」という新しいシリーズが発刊された。シリーズ当初は、前記のまど、谷川、それに坂田寛夫といったビッグネームや少年詩の世界で一定の評価を得ている詩人が中心のラインアップだったが、ここにきて現代詩の詩人のものも加わってきた。その中から気に入った一点と、もう一点は少年詩中心の出版社である、かど創房から昨年末に出されたユニークな詩集の二冊をここで紹介したい。

「十秒間の友だち」 大橋政人・詩 (大日本図書、1200円)
今、少年詩の世界は、前段でも触れた、まどみちおの影響か、俳句詩というか、端的な言葉でものの本質に迫ろうとする方法にやや偏りすぎているような気がする。その点、この大橋の詩集は、言葉の補助線が引かれているとでもいうか、突き放した表現ではなく、かつ饒舌にも陥らず、普通の心に普通に響いてくる気持ちのいい詩が並んでいる。例えば「星座」は「昔ね/星は一つ一つ/バラバラで/さみしそうにひかっていたので/昔の人は/星の家族を/つくってやったのではないでしょうか//クマの家族とか/ヒツジの家族とか/ワシの家族とか//一つ一つを/線でむすんで/みんな/ひとりぼっちじゃないよ/と言ってやったのではないでしょうか」という具合。読者には及びもつかない言葉を提示するというのではなく、もう少しで言葉になりかかっていたところを言葉にしてくれるという、共感に満ちた詩の世界だと思った。

「角円線辺曲」 江口あけみ・詩、川上茂昭・絵 (かど創房、1000円)
まずは、この詩集のタイトルに目を奪われる。これは特別の読み方をするわけではなく、文字通り角や円や線や辺や曲、つまりさまざまな図形を素材にした詩による詩集なのである。例えば「楕円」。「わたしは トラック/を 走るかんせい/空が高い//わたしは リンク/を 滑るかんせい/ライトを映す」というふうに、無機的な枠組みの中に、その図形のイメージを受け取る心の動きのおもしろさを込めようとしている。もう一つ「円錐」。「中心に/引っ張られているけど//探して探して/ひとまわり//取り残されたり/浮かんだり//一人芝居の/スポットライト」。やや大人の感覚ともいえるが、形を言葉に移し替えるおもしろさは、子ども読者にも共有されるだろう。一遍ごとにつけられたグラフィックアートふうな絵が、詩と「共演」している。東京新聞3 / 26 / 2000
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