子どもの本

藤田のぼる
東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
動物ファンタジー

動物ファンタジーは、児童文学の中でもかなり大きな位置を占めていて、ファンも少なくない。同じく動物が出てくる作品の中でも、動物が動物そのものとして描かれる。「動物文学」(『シートン動物記』や、日本の作品では椋鳩十の作品などが代表例)とは区別されていて、動物ファンタジーでは動物が人間のような感情を持つものとして描かれる。『たのしい川べ』や『ピーター・ラビット』の昔からイギリスが本場だが、日本でも『北極のムーシカミーシカ』『冒険者たち』など、読み継がれている作品も少なくない。このジャンルの魅力は、人間とは違った姿形や生態の動物が、人間と同じような感情や言動をみせる、つまり「擬人化」のありようというところにある。つまり読者は、動物たちの物語の向こうに、人間の物語を重ねて見ているのだ。そうした動物ファンタジー本来の魅力を十分に備えた作品を、日本のものと外国のものから一作ずつ、紹介することにしたい。

『ポピーとライ−新たなる旅立ち』
(アヴィ・作、B・フロッカ・絵、金原瑞人・訳、あかね書房、一四〇〇円)
 アヴィはアメリカの作家で、リアリズムの作家という印象があったが、この作品の前作『ポピー−ミミズクの森をぬけて』で、動物ファンタジーの書き手としても一流であることを証明した。主人公のポピーはシロアシネズミの女の子で、前作では自分たちを支配するミミズクに立ち向かって大活躍した。そのポピーが、ミミズクの犠牲となった恋人の死を知らせるため、彼の故郷を訪ねる。ところが、ようやく探し当てた彼の家は、近くの川にビーバーがつくったダムのために、水中に没する羽目になっていた。かくて、再びポピーの活躍となるのだが、ポピーは必ずしも積極的な行動派としては描かれておらず、むしろ「普通の女の子」がやむにやまれず立ち上がるという展開で、それだけにハラハラドキドキさせられる。そして、この作品で印象的なのは、ポピーを助けるヤマアラシのイリーシや敵役のビーバーたちなど、わき役の魅力で、彼らの存在感がドラマを厚みのあるものにしている。

『ちっちゃな家族−とがりねずみの暮らし』
(石井睦美・作、黒井健・絵、ポプラ社、一〇〇〇円)
 こちらもねずみだが、とがりねずみというのはモグラの仲間で、体長五a程度、ほ乳類としては古い起源の種の一つだが、絶滅危ぐ動物でもあるという。もちろん、こうした属性は作品のテーマそのものと分ち難く結びついている。主人公はとがりねずみの若い夫婦で、まずは回想風に彼らの出会いから語られる。「奥さん」の方は小さいときに兄さんたちが家を出て行ってからはひとり暮らし。あるときに川の向こうに住むとがりねずみと出会って、夫婦になる。読書家で詩人の夫と、しっかり者の妻。やがて彼らには五匹の子どもたちができる。物語はこうして一家の歴史を詩情豊かにつづっていくが、彼ら夫婦には自分たちの種への滅びの予感があり、これが作品の底を流れている。逆にいえば、そうした滅びの予感の中でどのように生を全うしていくかが語られているともいえ、これは実は今の子ども読者にとっては、ひとごとでないテーマと言えるかもしれない。
(ふじた・のぼる=児童文学評論家。「新刊から」も)
(東京新聞2000.07.23)
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