子どもの本

藤田のぼる
東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
 夏だから、というわけでもないが、ちょっとこわい話である。先日、NHK教育テレビで「六番目の小夜子」という連続ドラマがあり、これがなかなかだった。舞台になった中学校には「小夜子」をめぐる言い伝えがあり、三年に一度の文化祭でだれかが小夜子になる。その生徒にはカギが送られてくるのだが、彼女(彼)は自分が小夜子であることをだれにも気づかれないようにしながら、文化祭を共同幻想的なドラマに導いていかなければならない。そして、今年がその年なのである。小夜子を暗示するさまざまな兆候が校内に表れるが、だれが小夜子なのかをめぐって、子どもたちの緊張や憶測が極限まで高まっていく。
 白羽の矢を立てられることへの抵抗、当てられないことへの不満、そうした仕掛けの中から今の中学生たちの心のありようを浮かび上がらせていく展開は見事だった。本物の「こわい話」は例えばそんなふうに人間の心模様を浮き彫りにしてくれるのだと思う。

 「ひとりずもう」
     (内田麟太郎・作、ささめやゆき・絵、佼成出版社、1200円)

 「心妖怪シリーズ」と銘打たれたシリーズのこれは三冊目。これ以外の巻のタイトルを順に並べると、 『毒づき法師』 『ふこうばなし』 『あとずさり』 となり、五冊目の 『二枚舌』 のみ近刊。 「ひとりずもう」 「ほじくりかえし」 「けっこう仮面」 の三話からなっていて、これは標題であるとともに作者オリジナルの妖怪の名前でもある。例えば第二話では、少年野球チームのエースが転校していき、後がまの候補であるナオキは、ミーティングでライバルのトムの試合での失敗のケースを、次々にほじくり返していく。その帰り道、寄ってきた男(実は、妖怪ほじくりかえし)は、チームで発言力のある子の秘密を書いたブラックリストをあげるとささやく。ちょっと「笑うセールスマン」を思い出させるが、ここまで読んだ四冊のどの「心妖怪」も、それぞれにオリジナリティー十分で、それぞれに心のいろいろなところにチクチクと響いてくる。ささめやの絵がまた良く、これは企画としてヒット作といってよいだろう。


 「呪いのレストラン」
     (松谷みよ子・責任編集、かとうくみこ・絵、童心社、600円)

 こちらは「怪談レストラン」シリーズの十二巻目で、B6判ほどのハンディーな作りになっている。呪(のろ)いのワラ人形を素材にした「みたなぁ」、「コンビニののろいグッズ」、ロシアの話「死の水」など、古今東西の十話からなるが、一つ一つは呪いのレストランのメニューという設定になっていて、冒頭では東北の小さな町に「呪いのレストラン」があると聞いて出かけた筆者が、そこは実は「よめこレストラン」であり、嫁っこがなぜ呪いなのかという説明を導入して、この本の世界に入っていくしかけになっている。
 また、このほかにも「おまじない」 「呪いの解き方」といったページもあって、呪いの物語の怖さ、不思議さを味わいつつ、そうした物語を生み出す人間の関係性のありようにも目が向くよう、工夫がなされている。楽しみつつ、ちょっと勉強させてもらった気分の一冊だった。   

   (ふじた・のぼる=児童文学評論家) 東京新聞2000.08.27
テキストファイル化武像聡子