子どもの本

藤田のぼる
東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
 スピルバーグの映画「A.I.」が話題になっているが、あそこまでは当分無理だとしても、一方でロボット工学や人工知能の開発、また一方ではkローン技術など生化学の進展によって、「人間」とか「生命」についての定義や枠組みが、揺らぎ始めている時代であることはまちがいない。
 子どもが被害者であるばかりでなく、時に加害者ともなり得る社会状況の中で、彼らに「命の重さ」をどう伝えていくかも問われているが、その場合、命の「枠組み」や「形」をどうとらえ直していくかということも視野に入れていかないと、有効なメッセージになりにくい気がする。
 今月の二冊は、ジャンルも方法もまったく異なるけれど、そうした意味でいずれもさまざまな問いかけに満ちた作品だと思った。

『いのちがぱちん』
(後藤みわこ・作、岡本美子・絵、学研、一二〇〇円)
 主人公の美香子は四年生。だれかがきまりを破ったりしているのを見ると、一言注意せずにいられない性分で、ついたあだ名が「正義のミカコ」。近所の大人たちに対しても、ものおじしない美香子だが、どうしても避けてしまうのがヒロさんだ。交通事故の後遺症で会社もやめ、リハビリの散歩の日々のヒロさんに、美香子はどう声をかけたらいいかわからないのだ。
 学校の帰り、弟の竜也たちが公園でアリの巣をつぶしているのを見つけ、注意しようと走り出した美香子はバッタを踏んでしまい、思わず泣き出してしまう。そこにいあわせたヒロさんは、美香子に初めて事故で死に直面した時のことを語ってくれる。
 人間の心のありようへの美香子のまっすぐな思いが、命の豊かさ、不思議さへの認識にどうつながっていくのか、それは作者自身への問いかけとも読めた。

『ロボット世紀のとびらが開いた』
(本間正樹・著、原田こういち・絵、佼成出版社、一五〇〇円)
 まずは昨年のロボット博覧会に登場して話題を呼んだいくつかの新型ロボットが紹介され、ひきつけられる。第一線の研究者へのインタビューが軸になっているが、早稲田大学理工学部では、楽譜を読んでピアノを演奏するロボットや、感じる能力をつけさせるため、行動パターンをプログラムしないロボットが開発されているという。また、東大工学部で取り組まれているのは、人間がロボットに入りこんだ感覚で操作する「テレイグジスタンス」というタイプで、医療や災害救助をはじめ、さまざまな用途が期待されている。
 夢を感じる一方で、まだ少し先のこととはいえ、こうしたロボットが現れたときに、それに対処できる用意がわたしたちの側になければならないことを強く印象づけられた。

(東京新聞2001/07/22)
テキストファイル化山口雅子