絵本ってオモシロイ06

死をこえて
米田佳代子

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『パパにはともだちがたくさんいた』(末盛千枝子文/つおみちこ絵/ジーシー・プレス刊)をはじめて書店で見た時、特にハデな本でもないのに何となく心ひかれて手に取った。そしてパラパラとページをめくるうち、私の心の中に静かな感動が広がっていた。地味だけど、忘れられない、そんな思いで本を閉じた。
 この本は突然死んだパパの職場(テレビ局)を子ども二人が訪ね、パパと一緒に働いていた人々を見て、家とは違うパパの一面、それも素敵な一面を発見してゆくうち、自分たちはパパの宝物、そしてパパは自分たちの宝物、かけがえのない宝物、という思いに至るという物語である。
 絵本の展開の妙を見せる、ダイナミズムの絵本ではないけれど、文章と軽いタッチの絵がマッチして、とてもいい雰囲気を出している。
 これが作者の体験にもとづいていると知ったのは、作者の末盛さんとある会でお目にかかった時だった。
 末盛さんが、絵本の編集者だったのは知っていたけれど、まさかこの絵本の作者だったとは、恥ずかしながらお話をうかがうまで知らなかった。しかもパパ(つまり末盛さんのだんな様)が私の青春時代のひとこまをかざった「NHKステージ101」のディレクターだったことも、今、このコーナーを書くために送っていただいた本のオビを見てはじめて知った。「ステージ101」が好きだったから、ひいきしてこのコーナーに取り上げることにした訳ではない。
 この本の中には、決してかざらない本当の「ことば」がある。
 末盛さんに、これはノンフィクションですかとうかがった所「それだけじゃなくて、想像して書いた所もあるのよ。全体にはやっぱり創作かしら…」とうお返事を頂いた。
 悲しみという突然の事実を昇華して作品にまとめるのには、大変な苦労もあったことと思う。けれど、この作品からは、そういった苦労のあとや、つくりもののにおいは感じられない。
 多少たどたどしい、かもしれない。けれど、それがまたこの一冊の魅力になっていると思う。
 死をあつかった本は、まだまだ少ないが、この本は、死それ自体より、残された者の心の内側を描いている。それもまた素直に…。
 死のテーマに関心のある方のために、あと二冊全く異なったタイプの本を紹介したいと思う。一冊は『ほのおのとり』(本居つま文/井上博幾絵)これはカモメの姿をかりて死後の世界をかいまみる一寸不思議な本だ。もう一冊は『さよなら、ルーネ』(カルホール文/オイエン絵/山内清子訳)友だちを失った少女が、死というものを受けとめていく過程を、家族の愛の中に美しく描いた作品。
 福武の編集者が特に死に関心がある、という訳ではないけれど、ここにご紹介した二冊は福武の絵本です。『パパにはともだちがたくさんいた』ともども、ご一読ください。心が優しくなります。
福武書店「子どもの本通信」第8号 1989.8.20
テキストファイル化富田真珠子