絵本ってオモシロイ

08立体的な絵本(?!)
米田佳代子

           
         
         
         
         
         
         
     
 今回は福武書店が出版した『きたかぜとピオ』という絵本についてお話しましょう。この絵本はとてもおもしろい構造をもっています。本屋さんで見たらぜひページをめくってみてください。ひとつには、めくる効果を最大限に発揮している絵本だということ。
 まず、絵だけをみてみましょう。(文章はまだ見ないで!)第一場面主人公のピオが風景と一体になって描かれています。よっぽど注意してみないと、ピオがどこにいるのか、発見できません。そしてカメラはピオに次第に焦点をあててゆく。四場面目。ピオの本が風に吹き飛ばされる。5,6、7場面と、ピオは必死で追いかける。と八場面目、なにか異次元へいきそうな……。
 ページをめくるとそこはもう、現実の世界ではなく、どこか知らない世界。ピオは鳥にたすけられ、やっと本に追い付いて、と、またページをめくると、目の前に今まで追いかけてきた本が。開いた本の中は、どこかで見たような、と思うと、それは私たちが最初に見た風景。そう、ピオは自分が追いかけていた本の中の風景へと入りこみ、自分が追いかけていた本をやっとつかまえる。
 一ページめくるごとに展開する新しい世界。次はいったい何が起きるんだろうと、早く次をめくってみたくなる、効果的な場面設定。読者はピオと一緒に本を追いかけて不思議な世界を旅するのです。
「まてー、ぼくの本」
 さて、ここで谷川俊太郎さんの文章を読んでみましょう。とても短くかつ効果的な美しいテキストです。
 今まで私たちは、ピオと一緒に、不思議の国へ旅をしてきましたね。ところが、テキストはこう始まるのです。「きこえるかい、ぼくの うなりごえが?」そう、語っているのは、風なんです。風が語りかけているのです。「ぼくは きたかぜ、あきの このはを ふゆへと ふきちらす」そして、ピオがアップになった三場面目。「きこえないのかい、ピオ?」「いっしょに あそぼうってば!」「おはなしの つづきを よみたいんなら、ぼくを つかまえなきゃ!」
 絵とことばのミックスが、特殊な効果を生みだして、絵本という平面の世界が一瞬立体的に見えてくるこのすばらしい効果。時間軸と三次元の空間が絵本という閉じられた平面の中に突然現れるこの不思議。
 そして、この本のもう一つの面白い構造。それは(ちょっと混乱するかも知れないから、ここから先は覚悟して読んでくださいネ)ピオが追いかけている本はまさに、読者が読んでいる本そのものであり、また、ピオが鳥に乗って戻っていく世界もその本の中にある。それは、最初にピオが読んでいた本であり、そしてまた、ピオが最後に追い付いて取り戻す本でもあるのです。
 どうです、やっぱりちょっと混乱したでしょう? そう、その通り。それでいいんです。(書いている本人も混乱しそうなくらいですから)だって、この『きたかぜとピオ』は文章だけでも、絵だけでも表現し得ないことを絵本ならではの方法を自由自在に駆使してうまーく表現しているんですから。
 混乱してしまったあなた、古くからいうとおり「百聞一見にしかず」です。さあ、本を開いて、しばしこの不思議な世界に遊んでみてください。
福武書店「子どもの本通信」第10号  1989.12.20
テキストファイル化富田真珠子