絵本ってオモシロイ


10.緑を愛す
米田佳代子

           
         
         
         
         
         
         
     

 最近狭いベランダではありますが緑を育てたくてたまりません。春になれば種蒔き時。さっそくプランターを買ってきてハーブや花の種を植えてみようと思っています。
 さて本題。『はちうえはぼくにまかせて』(ジオン作/グレアム絵/もりひさし訳/ペンギン社)をごぞんじですか。夏休みにどこにもつれていってもらえないと決まった男の子トミーが近所の人たちの鉢植えを預かるというおはなしですが、読みおわるとたとえ植物好きでなくても、ああ家にも緑があったらいいなあ、と思うことうけあい。
 緑を育てるには愛情が必要だといいます。トミーは夏の終わりに鉢植えをひきとりにきた持ち主たちが「まえよりすてきになった」というほど見事に鉢植えの面倒をみました。時には家中が緑に占領されて、家がこわれてしまうなんて途方もない夢をみながらも。
 男の子トミーの活躍もさることながら、楽しいのはトミーの両親の態度。とんでもないことになったものだとぶつくさ言いながらも、決してトミーを叱ったりはしないのです。「夏休みにどこへもいかないから、何でもすきなことをやってもいい」というトミーとの約束を尊重し、不自由な生活も我慢しているようです。(眉間にしわを寄せながら食事をしたり、テレビを見たりしているお父さんの顔にはリアリティーがあります。)
 トミーは、お風呂の中で眠ってしまうほど疲れていても、けっして、泣き言もいわず、親の力もかりず、問題も一人で解決してゆきます。わたしがトミーだったら、「たすけてよー」と、恥ずかしながら助け船を求めてしまうことでしょう。
 ある外国人の友人が言いました。「日本の子どもは甘ったれね。親が甘やかしすぎるから、自分で考えて行動するっていう自主性がそだたないのよ」またある大学の先生は「大学生を教えてるっていうより、小学生を教えているみたいだ。何でもかんでも教えてもらえると思って自分で考えてみるってことのできる学生はホントにすくないよ」と嘆いていました。文化の違いといってしまえばそれまでですが、わたしはこの本をあらためて読みながら、トミーの行動を見て、なるほど、なるほどと妙に感心してしまいました。
 そして本の後ろにある作者紹介のところに、「はちうえはぼくにまかせて」は、休暇中に鉢植えの世話をどうするか、という長年の悩みをもとにつくられた、とあるのを読んで、だれもがもつ悩みからこんな素敵な本がつくられるっていうのもすごいな、とまたまた感心してしまったのです。
 わたしも国内、海外をとわず割合長期の出張の多い身。「休暇中」っていうのでないのが、なんとも淋しいかぎりですが、やはり不在中の植物の世話をどうしようという悩みは同じです。近所にトミーのような少年がいたら、一日一鉢で二セントでも三セントでもお願いするんだけれどなあ。と、ため息をつきつつ、本を閉じました。(もっとも日本の住宅事情じゃ、やりたい子がいても、とうていむりかもしれませんが…)
福武書店「子どもの本通信」第12号  1990.4.20
テキストファイル化富田真珠子