絵本ってオモシロイ


14.外国の生活を知る

           
         
         
         
         
         
         
     
 近ごろ新婚旅行に海外に行く人が多いとか。独身OLは年に一度は海外旅行がトレンドという話も聞きます。旅をするのは面白いですが、一体どれだけの人が人々の生活や考え方にふれているのかと考えてみると、ほとんどいないというのが現状ではないでしょうか。普通の人が絶対買えないような贅沢品を買い込み、ブランド物で身をつつみ…。
 本というのは言うまでもないことですが、実際には体験できないことを経験させてくれます。今回は色々な国の人々の生活を描いた絵本を考えてみたいと思います。まず、『たいようのこども、ワイラ』(エウセビオ・トポーコ作/やなぎやけいこ訳/福武書店)。南米ボリビアに住むアイマラ族のインディオの少女ワイラが、初めて村を離れ、両親と市へ出かける旅を描いたこの絵本の作者トポーコさんは、アイマラ族の出身です。自分たちの文化や言葉、宗教を禁止されスペイン化を強制されている自国の子どもたち、そして他の国の子どもたちにも、スペインがやってくる前にインディオたちはこんなふうに暮らしていたということ、そして今でもこんなふうに暮らしている人たちがいるということを知ってほしくて、この絵本を作った、とあとがきで書いています。ここには、コンドルのように自由な心をもち、自由に生まれ、自由に老いていくアイマラ族の姿が生き生きと描かれています。ワイラは旅の途中でたくさんの人に出会い、色々なものを見、さまざまな話を聞きます。ワイラの目を通して歴史が、生活が、考え方が語られます。画家として有名なトポーコ氏の油絵が、ボリビアの自然と風 俗を見事に描いています。字が多い絵本なので幼稚園ぐらいの子どもには難しいかもしれませんが、一度はぜひ読んでほしい本です。狭い日本でせかせか暮らしている私たちにとって、心が洗われるような素晴らしい作品です。
 さて、スイスは、いわば観光旅行のメッカですが(それこそ新婚旅行の)『ちいさなアルベルト』(アルベルト・マンゼル作/田中安男訳/福武書店)を開いてみてください。作者のマンゼルは、スイスのアッペンツェルで生まれました。この本は彼の少年時代を描いた絵本です。画家になりたかったけれど生活のために菓子職人の修行をしたマンゼルは歳をとってから夢を実現し本職の画家になり、この絵本を描きました。そこに住んで生活した人でなければ描けない情景や少年アルベルトの毎日が、四季の移り変わりとともに細密な絵で描かれています。観光客が「きれい!」と感嘆する美しい風景も、マンゼルの手にかかると単にきれいなだけでなく生きた自然として描かれます。観光客が押しかける中、昔ながらの牧畜、乳業を営む人々。この淡々とした語り口の絵本の中には観光旅行では決して触れることのできない、生き生きとした人々の生活が存在します。
 人間の生活を描いた絵本には地味なものが多いとは思います。けれど、ゆっくりとページをめくり、じっくりと絵を味わっていると、その世界は実に深いのだ、ということに気づかされるのです。(米田佳代子
福武書店「子どもの本通信」第16号 1990.12.20
テキストファイル化富田真珠子