絵本ってオモシロイ

15.生活を知る絵本
米田佳代子

           
         
         
         
         
         
         
     
 前回の続きで、生活を描いた本をあと2冊紹介したいと思います。ひとつは、北極圏にすむラップ人の生活を描いた『ゆきとトナカイのうた』(ボディル・ハグブリンク作・絵/山内清子訳/福武書店)。絵本でありながらふつうの約2倍の64ページという長さですが、トナカイを追いながら生活する彼らの様子が細かく美しい絵で物語られています。この絵本を初めて見たとき、面白いなと思ったことは、この本の中のラップ人たちは、スノーモービルをあやつりながらトナカイ追いをしたり、町のお店に必要なものを買いに行ったりする、現代のラップ人だということでした。わたしたちは時として遠い国で自然と調和しながら生活している人々の暮らしの中にノスタルジイを探し求め、必要以上に「昔風の生活」を追い求めてしまいます。その証拠に日本を含めた世界各地の観光地には、昔の衣装に身をつつみ、それらしい生活を再現してみせる「商売?」がたくさんあるではありませんか。この本の中には現実の彼らの生活があります。そこをきちんととらえた作家の目の確かさに感心するのは、私だけではないことでしょう。もっともこの本がノルウェーで出版されたのは、あのいまわしきチェ ルノブイリの前(1982年)ですから、今の彼らの生活がどうなっているか考えるに、胸のつまる思いがします。トナカイと共に生き、トナカイを殺すときには何一つ無駄にはしない彼らの生活が、なんとか回復してくれることを願ってやみません。
 さて、ここに日本の生活を描いた『ゆきがくる』(あさいたかし作/福武書店)という作品があります。この作品は1960年代の札幌を舞台にしています。当時の生活風景をバックに、ある少年が初雪を待ちわびる様子をたんねんに描いた作品です。今30代以上の方が見れば懐かしい情景が画面いっぱいに広がっていますが、この本のテーマはノスタルジイではありません。確かに冬の生活は変わってしまったけれど、舞台を60年代に設定することによって、雪を待ちわびる気持ちや冬を迎える厳しさがよりクローズアップされ、読むものの心に響いてきます。環境は変わっても、時は移りすぎても、雪を指折り数えて待つ気持ちに変わりはないのだということに、この本は気づかせてくれます。
 人々の生活をたんねんに描いた本。一つ一つの事象をおろそかにしない描写を見ているだけでも心が豊かになるような気がします。一冊一冊にこめられた各地の文化や歴史、そこに住む人の心に、間接的であってもふれることは、それが幼いころであればあるほど、意味があることだと思います。世界の動きをみるにつけ、たとえ少しずつでもこういった本を出し続けたいと思います。
福武書店「子どもの本通信」第17号 1991.2.10
テキストファイル化富田真珠子