絵本ってオモシロイ

16.絵を読むおもしろさ

           
         
         
         
         
         
         
     
 絵本において絵は、「見る」というより「読む」ものであるといったほうがいいかもしれません。絵本にも字がかいてありますから、わたしたちは字を読むことに気をとられ、絵を読むことを忘れがち。すると、絵本の楽しさの大部分を逃すことになってしまうのです。
 『ロージーのおさんぽ』(パット=ハッチンス作/わたなべしげお訳/偕成社)を見てみましょう。ニワトリのロージーはお散歩にでかけます。庭をすたこら歩くロージーの姿が文章で描かれます。左から右へ巣箱に向かってすたこらすたこら。けれど、絵をじっと「読んで」みると、文字では語られていないことが読めてきます。おや、ロージーのうしろからついてくるのは……キツネです。キツネはロージーをたべようとしてしいるようです。けれどキツネに気づかずロージーは、ひたすらすたこら。ロージーはついていました。だって、キツネはつぎつぎと思わぬ災難にみまわれ、あげくのはてにハチの大群に追われ、ついにロージーをつかまえることができなかったんですから。単純化された絵をもっと読んでいくと、もっといろんなことがわかってきます。ネズミやカエルや山羊の動きや表情にも注目してみましょう。一度読み終わったらこんどは扉(本の中の題名や著者名が書いてあるページ)を開いてみます。すると、ロージーがお散歩した道筋がわかります。
 『みんなでおはよう』(ナンシー・タフリ作/福武書店)も絵を読む楽しさが存分に楽しめる作品です。ここに書かれている文字はすべて登場動物の鳴き声です。オンドリの時の声とともに農場に朝がやってきて、ヒヨコたちは目をさまし、動物たちにピヨピヨピヨ(おはよう)と朝のあいさつをして回ります。三羽のヒヨコが中心に描かれていますが、絵を注意深く読んでみると……がちょうはドタドタとかけまわり、ネコはネズミを追いかけまわし、そこにもまた、ひとつのドラマが語られています。扉と、オンドリが「コケコッコー」と鳴くページの間には、文字のない見開きが一つあります。自然が目覚める直前の静けさがここには描かれているわけです。けれど、よくよく見てみると、納屋の屋根の上には黒い影が……。
 絵を丹念に読んで行くと、文章だけを読んでいたときには気づかなかった広がりと深さがあることを発見し、ますますその世界に入りこむことができます。具体的に描かれた事物だけでなく、色や構図をよむことも絵本のおもしろさの一つです。機会を見付け、そのうちそのことについても書いてみたいと思っています。(米田佳代子
福武書店「子どもの本通信」第18号 1991.4.10
テキストファイル化富田真珠子