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同じテーマで何種類もの違う本が作られることがあります。例えば、数の本。一から十までの数字と絵を組み合わせ、様々なアイデアで本が作られています。数字の形に着目したもの、数が増える度に登場する動物の数が増えるもの、物語の中にたくみに数を折り込んだもの等々。 欧米では、数の本と同じぐらいかそれ以上に、アルファベットの本があります。アメリカの絵本の賞に名を残すカルデコットもアルファベットの絵本を作っています。 さて、『なぞなぞアルファベット』(きたむらさとし作/佑学社刊)という本は感心するほど面白いアルファベットの本です。この作家、ロンドン在住の日本人で、数年前に課題図書に選ばれた『ぼくはおこった』(佑学社)を見ても、ユーモアのセンスと絵本の面白さを駆使した場面展開、明るくて楽しい絵がらなどから作者の才能が感じられます。(まだよんだことのない方はぜびどうぞ) 『なぞなぞアルファベット』の表紙を見てみましょう。空とぶアルファベットを虫取り網でつかまえようとしている男の子が描かれていて、いかにも楽しそうです。さて、本文。1場面目。果物が入ったダンボール箱にaとbという文字が書かれています。箱の中身は? とページをめくると、aは apples、bは bananas、箱の中身はりんごとバナナでした。そこからこの場面の右の方に視点を移してみましょう。ごみバケツの上にcとdが、そしてバケツの中から何やら手がのぞいています。バケツの中身は何? とページをめくると、cは cat 、dは dog 、バケツの中にいたのは犬と猫でした。そのページ、またまた絵をよくみてみると、道路に巨大な足跡と、車が通ったあとが描かれ、その上にe、fと書かれています。この足跡なんだろうとページをめくると、もうわかりましたね、e= elephant 、f= fire-engine 、つまり巨大な足跡は象、道路の車のあとは消防車のものです。こんなふうに絵解きと文字を組み合わせながら絵本は展開します。最後のページには日本の読者のために、全ての単語の意味が書いてありますが、つくづく残念に思うのは、やはり日本の子どもにとって、いくらeは elephant だといわれても、発音もできないし読めもしないから、面白さを百%楽しむのが難しいだろうということです。すごく楽しい本だから何とかしよう、と編集の人もいろいろ考えたに違いありませんが、しかたありません。 この本のように何度よんでも飽きなくてかつ絵本の面白さを十分にふまえたあいうえおの絵本をつくってみたいものです。 数字、あいうえお、アルファベットの本を勉強の本ととらえる向きもありますし、書かれた物語がなければ本当の絵本ではないという人もいることでしょう。けれど、この一冊はそんな意見を吹き飛ばすパワーを持っています。絵を読む楽しさと、意外なものの組み合わせの生み出すユーモラスな驚きを存分に楽しませてくれるからです。
福武書店「子どもの本通信」第23号 1992.2.10
テキストファイル化富田真珠子 |
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