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近頃の子どもは本を読まないという話はよく聞きますし、事実児童書の売り上げは年々落ちています。けれど、大人は本を読むのかと考えれば、ま、自慢できるような状況ではないでしょう。 私はコミックの専門店に、ちょくちょく出かけます。はやりのマンガを知るためなのですが、棚揃えを見ているとここ数年、マンガだけでなく、子ども向けの文庫を置くスペースが増えてきているのがわかります。あ、マンガ文庫ではなく小説ね。 女の子の場合は集英社のコバルト文庫時代から(コバルトはまだありますよ、もちろん)多少の栄枯盛衰はあるものの、ずーっと読者はいましたから、とりたてて驚くこともないのですが、マンガとアニメとゲームに走っていた男の子たちの一部が、どうやら、小説に近づいてきています。 私の頃の男の子が文庫で読んでいたのは、ホームズやデュパン、そして海外SF(+星新一)だったのですが、それらが復活しているわけではなく、日本の若い作家の作品です。 なんで急にそんな状況が? と驚くことはありません。これらの小説は、男の子たちが楽しんでいたマンガやアニメやゲームの延長線上にあります。彼らにとってごく親しいメディアで楽しんでいた物語を、なじみのないメディア、「小説」で新たに楽しむ。そんなノリがあるのです。「小説に戻ってきています」ではなく「近づいてきています」と書いた意味はそこにあります。彼らにとっては、マンガやアニメやゲームに対して、小説の方がサブカルチャーであるようなのです。 これはなかなかおもしろい事態です。なぜなら、「近頃の子どもは本を読まない」が嘆きとして成立するには、マンガやアニメやゲームなどが主にサブカルチャー用のメディアであり、メインカルチャーのそれは本であるという前提を大人も子どもも共通に認識している必要があるのですが、それがなくなってきている可能性があるからです。もしそうなら、大人の「読書の薦め」は空回りしてしまうこととなります。(続く) (ひこ・田中 「図書館の学校」2001.07) |
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