子どものHP/MP

(15)大人ができること。

           
         
         
         
         
         
         
    
 九月、パリにアパートを借りて二週間程ぶらぶらしていました。レ・アールやバスチーヌ近辺のような若者の集まる場所は、ケイタイをもってるコがいないのを除けば、ヒップホップ系のコや、キックボードを乗り回すコ達と、日本の風景とさして変わりません。もちろんアケードゲーム屋に入れば、対戦物は人気ですし、ソフト店にはポケモンもデジモンも元気。アニメおたく系の店ではセル画やビデオの山。綾波レイもまだ健在です。TVではピカチューが「ピッカ、チュー!」と言っている以外、さとし達はフランス語でしゃべっていて(当たり前か)ちっともわからない。情報社会では、子どもの文化は国境を越えています。
 ある日道に迷って、ブローニュの森に入ってしまいました。森といっても、そこここに公園が造られています。どの公園にも親子連れが一杯。だんだん陽が短くなっていく季節を惜しむように。ここでも「公園デビュー」なんてあるのだろうか?
 向こうの方に回転木馬が見えます。近づくと、なんと手回し。おじさんが子どもを一人ずつ木馬に乗せます。その時に先のとがった棒きれを渡すのですが、何に使うのだろう?
 回転木馬の中央にハンドルがあってそれを回すのですが、おじさんそんなことはせず、木馬を固定している鉄棒を押して回します。なるほど、これなら回転速度の調整も自由自在。走り始めた木馬にニコニコ顔の子どもたち。彼らは、棒きれを突き出して、回転木馬の外側に設置してある台に吊されたリングをゲット。すると、自動的に上から新しいのが降りてきて次の子がそれをゲット。そうして、子どもたちの持つ棒きれにはどんどんリングがたまっていくのでした。ただ回転木馬に乗っているだけでなく、そこに一つゲーム性が入っている。私は初めて見たのですが、きっと昔からあるのでしょう。
 ところで、木馬に乗る子どもには年齢や体の大きさなど違いがあるわけですから、当然リングを取るのが下手な子もいます。棒きれを突き出しても台まで届かない子の場合、もう、どうしようもない。
 どうするのかな? と思っていたら、おじさん、そういうゲットできない子たちの木馬が台の近くに来るとさっとリングを外して、彼らの棒きれにはめる。それはほれぼれするほどの速さ。仕事人です。
 これって、贔屓?
 もちろんそうではなく、これこそ大人が子どもにできるサポートです。
(ひこ・田中 「図書館の学校」2001.11)