英で絵本テーマに国際シンポ


           
         
         
         
         
         
         
    
    
◎評価基準に多様な視点を
 =英で絵本テーマに国際シンポ=
 絵本にテー マを絞った異色の国際シンポジウム「リーディング・ピクチャーズ」が、二〇〇〇年九月一日から、英ケンブリッジ大学ホマトン・カレッジで開かれた。同カレッジが主催し、 世界のさまざまな地域から三百六十人余が参加したこのシンポジウムは、教育・研究に携わる大人たちが、 学問の場で絵本を論じたことに、意義がある。
 基調講演と絵本作家のプレゼンテーション、分科会に大別されるプログラムのほか、会場内では絵本の展示即売会や画家のサイン会が、また市内の美術館では原画展も開かれ、雰囲気を盛り上げていた。
 基調講演は七人の絵画や心理学の研究者、児童文学の批評家らによって行われ、その中でジェーン・ドゥーナン氏の基調講演は秀逸だった。二人の絵本作家、サラ ・ファネリとブルース・イングマンを題材に、西洋の画家の影響(前者にはD・ホックニー 、後者にはマチス)が、具体的にどの部分に表れているかを実証したのである。「絵本の中の絵を見る」(未訳)という著書もあり、絵本論に秀でた批評家ら しい明快な講演だった。
 研究者グンター・クラス氏の講演も新たな示唆に富んでいた。われわれが外界をど のように視覚的にとらえ、それが時代とともにどう変化し絵に反映しているかを、 絵画やポスター、子供がかく絵を使い、心理学的見地から考察したのである。
 分科会は計四十六あり、各分科会で三人のパネリストが発表した。日本からは三名が発表し、私もその一人として、「三人のアーチストの肖像」と題した分科会で宮崎博和氏の「ワニくん」シリーズ(BL出版)を取り上げ、そのテーマと技法を論じた。
 別の分科会「絵本と遊ぶ」では、絵本研究家の正置友子氏が英国でも無視されていた十九世紀のトイ・ブックスについてその歴史と評価を、翻訳家の田中美保子氏はビデオを交えて「紙芝居」の歴史と現状を、紹介した。続いて、絵本作家きたむらさとし氏の絵本を紙芝居にしたものを、研究者のビクター・ワトソン氏が朗読。紙芝居の実演は、絵語りの持つ威力を聴衆にアピールする上で効果的だった。
 多彩なプログラムが満載の三日半、絵本が教育現場で重視され、かつ幅広く人気を得ていることが改めて確認できたのだが、気に掛かったこともある。
 それは、基調講演と分科会の多くが西洋の絵画を基準に、絵本の「絵」を考察、評価していたことだ。確かにこの手法は、理路整然と個々の絵を論じるのに有効である(筆者も発表に利用した)。だが、日本のように、右開き・縦書きと左開き・横書きが共存する絵本文化を持つ国では、本を開く流れや読者の目と脳の動きなども加味した評価基準を持つべきだろう。
 今後は、各国の文化の差異を踏まえ、そこから評価基準の議論へと発展させていくことが課題ではないだろうか。各国の研究者たちが、絵本にふさわしい新しいアプローチを作り出すことを期待している。(大学講師・西村醇子)(了)

 この記事は、時事通信社から2000年9月に地方紙向け記事として配信されました。