コドモの切り札

(38)
三谷幸喜はエライ!

甲木善久
           
         
         
         
         
         
         
     
 このところ新聞を読んでいると、実にイヤな事件ばかりが目についてしようがない。弱者に刃を向けだ犯罪の邪悪さは言うまでもなく、そして、その他の事件も、いい大人がてんで情けないことばかりやっている。銀行員も、証券マンも、テレビ局員も、官僚も、皆さん有名大学を卒業したエリートなのだろうけど、揃いも揃ってバカをやっているんだから困ったもんである。
 いやまあ確かに、チョット親切に考えてあげれば、宮仕えの辛さもあるのだろう。それぞれがそれぞれの立場で、ニッチもサッチもいかずに仕方なくやっちゃったという見方もできないわけではない。けれど、しかし、どんな組織だって人と人とが集まってできているのだ。ならば、各々の現場の中で、少しずつ戦うことはできたんじゃなかろうか。
 とはいえ、それくらい、エリー卜の皆さんなら、頭では十分にご存じのはずである。ただ現実問題として、行動には結び付かないだけなのだ。ふう、そんなことを考えると、なんだか絶望的に言葉が虚しい時代に生きているような気がしてくる。
 さて、そんな時代にあって、三谷幸喜脚本のテレビドラマ「総理と呼ばないで」の最終回は、観ていて結構グッときた。田村正和演ずるところの史上最低の総理大臣が、不祥事を全面肯定して辞めていく。その退任演説がスゴク感動的だったのである。ほとんど報道陣が入らない会見会場で、彼が熱く語るのは「政治は国民の手の届くところにある」「無能な政治家が辞めるのは民主主義が正しく機能した証拠だ」「狭い視野で政治をやるのは間違っている」「恒久平和を謳った日本国憲法を一度読んでみてほしい」「子供たちが胸を張って『将来は総理大臣になりたい』といえる世の中が来ることを願う」というピュアな台詞である。
 こういう純粋な言葉、本来は児童文学の十八番のはずなんだけど…。
西日本新聞1997.06.22