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「ねえ、アイって何?」 「Hの後にあるものさ」 「えっ!」 「アルファべットの話 じゃなかったの?」 というのは、もちろん、使い古された冗談だが、『ラヴァーズ・キス』(吉田秋生/小学館)の川奈さんと藤井くんの場合、そういう順序で愛は始まってしまった。 この作品は、1・2巻の表紙にそれぞれ描かれた三人の少年と、三人の少女たちの想いの交錯する物語である。そして、「交錯」というのは本当に「交錯」なわけで、川奈姉と藤井くんがラブラブになっていく過程を取川巻きながら、川奈姉のことを彼女の親友の美樹さんが、美樹さんのことを川奈妹が、藤井くんのことを川奈姉と幼なじみの鷺沢くんが、鷺沢くんのことを川奈妹の親友の緒方くんが、懸想してしまうという複雑な展開を見せるのだ。 あー、わかります? 要は、♀←→♂が一組で、♀→♀が二組、で、さらに、♂→♂が二組と同性愛が絡むわけですね。 さて、このところ毎週、吉田秋生の作品に寄り添いながらジェンダーとセクシュアリテイについて語ってきたわけだが、この作品あたりまでくると結構ムツカシイ話になってしまう。というのも、ここで扱われる同性愛なるものは、ジェンダーという鎧に覆われていない赤裸々なアイデンティティに触れてしまうからである。 少女を好きになってしまった少女も、少年を好きになってしまった少年も、当然、悩むんである。が、しかし、悩んだところで「好き」という感情は消えるはずもなく、ならば、自分が自分であるために、まず、その点を直視するほかない。 このような身体を前提としたアイデンティティのもとに、恋人たちはキスをする。それは、もちろん、互いを認め合うことで成り立つ「やさしい関係」の象徴である。 愛や恋がなくったってSEXはできるけど、やさしいキスには、それが不可欠なのよねェ。 西日本新聞1997/10/26
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