毎日新聞・子どもの本新刊紹介


2001.04

甲木善久

           
         
         
         
         
         
         
     
 いい本というのは何度も読み返したくなる。今回は、そんな新刊を取り上げてみよう。
 『ライオンのよいいちにち』は、まず文を読まずに絵だけを楽しみたい。どのページも画面いっぱいにアフリカの大地が広がり、見ているだけで伸び伸びした気持ちになれる。
 そうした心地良さを味わいながら、あっちをめくり、こっちをめくりしていると、これらの絵の中には大きな時間が流れていることに気づくだろう。ゆるやかだった風が段々と強まり、空の色が変わり、巨大な雨雲が草原の上を横切り、穏やかな夕日のあと静かな夜が訪れる。そんな大地の上に暮らす動物たちの姿が、また実にいい。旭川市旭山動物園の飼育係でもある作者ならではの動物を描く筆の確かさと迫力は、この絵本の大きな魅力である。
 物語に目を移すと、ただそれが好きだという理由だけで、子供と散歩をするライオンのとうさんのマイペースぶりが笑える。夜になり、母ライオンが狩りをしているのを子供と一緒に眺めながら、俳句をひねって自己満足に浸ったりもする間抜けな父ライオン像は、多くの読者にとって意外なものであるかもしれない。が、この作者であればこそ、実際のライオンの生態に基づいていることは言うまでもないだろう。絵を楽しみ、物語を楽しみ、そしてまた両方を重ね合わせて楽しめる味わい深い絵本である。
 動物といえば『どうぶつえんにいこう』も楽しい。これは、水族館の勤務経験を持つイラストレーター・福武忍による動物園のガイドブックで、正確な動物の姿と、それでいてコミカルな内容が何度も本を開かせる。本自体の魅力もさることながら、実は、本自体も楽しいけれど、動物園を何度も楽しめるよう工夫された本なのだ。
 繰り返しページをめくりたくなるということなら『ポモさんといたずらネコ』も負けてない。帽子大好きのポモさんが新しい帽子を持ち逃げしたネコを追いかけるお話を縦糸に、写真家の撮影風景などの、たくさんの横糸が織り込まれているせいで、読み進みながらも、ついつい前に戻って確認したくなる。シンプルな線と柔らかな色調の、遊び心たっぷりの絵本である。
 さて、『にんきものをめざせ!』と『にんきもののはつこい』の二冊は、組み合わせて読んだときに面白さが倍増するという演出がいい。ボーイッシュな少女かなえちゃんの恋心を描いた『―めざせ!』と、そこに憎まれ役として登場する男子のアイドル(女子の敵)きさらぎさんの恋を描いた『―はつこい』は、それぞれの視点のズレと価値観の違いが爆笑ものである。とはいえ、切ない恋心は相通じるものがあり、ここらあたりの描き方も実に上手い。

<ブックリスト>
★『ライオンのよいいちにち』あべ弘士・絵・文/佼成出版社/1300円
★『どうぶつえんにいこう』福武忍・著/村田浩一・監修/文溪堂/1200円
★『ポモさんといたずらネコ』すぎたひろみ・絵・文/理論社/1000円
★『にんきものをめざせ!』『にんきもののはつこい』共に、森絵都・文/武田美穂・絵/童心社/900円