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「ぼく、もう なかないよ」 優しさや愛情に満たされた経験は、また別の誰かと優しい関係を結ぶための力となる。この絵本が教えてくれるのは、そういうことだ。かばのおばあさんの死を乗り越えて、わかいさるが新しい友情を見つけるまでの切なさを見事に描き出したこの作品は、こんな時代だからこそ多くの人に読んでもらいたい。 (サイモン・パトック文、アリソン・バートレット絵、ないとうふみこ訳/徳間書店、本体1400円) 「もっくりやまの ごろったぎつね」 ごろったぎつねは有名だ。なにしろ変わったものを持ち込んで、いつでも騒ぎを起こすから。今日も今日とて絵の具と筆で、絵描きになって似顔絵描き…。小沢良吉の艶やかで凛とした絵を最大限に生かすため、その全てを額に入れたよう配置し、効果的に余白を使った装丁が美しい。 (征矢清さく、小沢良吉え/小峰書店、本体1500円) 「もぐらのムックリ」 地面に顔を出し春を感じたムックリは、冬眠中の友達との約束を果たすため、みんなを起こしに出かけます。画面からは、まだ寒さの残る土の中と暖かい地表のコントラストや、ムックリの語る胸躍る春の気配が伝わり、それに調和した文章がリズミカルに縦糸を通す弦楽奏曲のような絵本です。 (舟崎克彦作、黒井健絵/ひさかたチャイルド、本体1000円) 「オオカミくんのホットケーキ」 優しい顔のオオカミくんは、見た目のとおりにていねいで、とても礼儀正しい。でも、残念ながら不器用でホットケーキ作りに苦労する。仕方がないので近所の人に助けてもらおうとするのが、逆に冷たい仕打ちを受けてしまう。アッと驚く結末の、かわいらしくて怖い絵本である。 (ジャン・フィアンリーさく、まつかわまゆみ・やく/評論社、本体1300円) 「わたしのうみべ」 朝のうみべはステキです。冷たい空気に、すこし温かな潮の香りがしています。波打ち際には、夜の間に流れ着いた色んなものが落ちてます。木やビンや、小さな貝や、オバケや傘や、おとうさん……。海と空の微妙な色合いの変化が美しい、ナンセンスでシュールな絵本です。 (長新太さく/佼成出版社、本体1400円) |
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