2000/01/25
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【絵本】 『はたらく くるま』(バイロン・バートン あかぎ かずまさ訳 インターコミュニケーションズ 1987 1999) バートンのなんのけれんもない絵と文、そして色使い。 今回のは、タイトル通り、ビルを壊し新しいそれを建てるまでの、様々な車の姿を描きます。 こお絵本のキモは、描き手が奧に下がって、ただただ、日常にある風景の断片をちゃんと届けてくれること。 『おさじさんのたび』(松谷みよ子・作 ささめやゆき・絵 にっけん教育出版 1997) 阪神淡路大震災をモチーフにした物語。 小さないさじはガラスケースに飾って売られていたけれど、そんなのつまんないと、店を抜けだし、自分が使われたい赤ん坊を見つけて、この子のおさじになります。 やがて、地震。 避難した家族を捜して、おさじの旅が・・・。 安定した話運びはさすが。 でも、こんな書き方で何が伝わるんだろう? 肝心のモンダイから読者の目がそれてしまう。 『赤いろうそくと人魚』(小川未明 たかしたかこ・絵 偕成社 1999) お馴染みの「大人の絵本」シリーズの最新作。物語は、もはや述べるまでもなし。このシリーズの芯は物語にどんな絵を持ってくるかですが、今回のはそのまんま。特にこの物語の場合、ロマン派のクラーイ部分が色濃いですから、それとのスタンスをどう取るかに掛かっていると思うのですが、その辺りがよくわからない仕上がり。 『メロンのじかん』(まどみちお 広瀬弦・絵 理論社 1999) メロンとは犬の名前。この最新詩集は、この犬を巡る詩を中心に構成されています。 まどの詩は「発見」がベースとなるものが多いけれど、この詩集もそう。「発見」とは何も未知のものとの接触だけでなく、既知のものを新たに発見することもあるわけで、むしろそっちの方が心をほぐしてくれる。 巻頭の「なにも かにもが」などは典型で、「ムクゲがかきねにさいている/なにやらきらくににほんごで」にはじまり、「バオバブがどっしりと立っている/アフリカのげんちにげんちごで」へと流れ、終わりの方で「などとにほんごしてるのはにほんじんのぼく」を発見し、そこから「ほんとはみんなみんなじぶんごしてるんだ」もまた発見し、最後に「なにもかにもがちきゅうごで/それともきづかずにうちゅうごを」と開いていく。 しかし、それよりなにより、メロンとの時間の詩たちがいい。 ---------------------------------------------------------------------- 【創作】 『ミステリアス・クリスマス』(ロバート・スウインデルス他 安藤紀子他訳 パロル舎 1991〜93 1999) クリスマスにはゴースト・ストーリーを語り合うイギリスの風習に基づいた短編集。原著三冊28編中、7編が収められています。 怖い話というのは子どもがからむとよりいっそう怖くなるのを再確認。その角度から読んでもおもしろいでしょう。 装丁も良し。 どれも個性があるので、どれが一番怖いかは人それぞれ。私は「切ってやろうか」が、真っ当で結構好き。 あ、でも、今頃ご紹介している私が怖い・・・。 『冬の入江』(マッツ・ヴォール 菱木晃子訳 徳間書店 1993 1999) この著者の初翻訳のようですが、それが不思議なくらい筆力のある作家です。 ストックホルム、母親再婚相手を憎み、家を出て祖母と暮らすヨン。ある日溺れかけた少女を助けたことで、その姉のエリザベスと知り合う。階級の違う二人。あろうことかヨンは友人と彼女の家に泥棒に入る。 入学した演劇高校の始めての授業。そこにエリザベスもいた! 二人は恋人になるのですが・・・。 上手なエンターティメントと、今の日本ではこっ恥ずかしいほど眩しい青春。でも日本のYだって、本当はこんな物語も好きだと思うよ。読むようになるまでの道は遠いかもしれないけど。 上手は物語で、物語の面白さを知って欲しい。 ただし、ラストは急ぎすぎ。続編でもあるのかしらん? 『イスカンダルと伝説の庭園』(ジェアン・マヌエル・ジスベルト 宇野和美訳 徳間書店 1988 1999) イスカンダルと言われるともう、あれしか思い浮かばない人も多いでしょう。実は私もそうなんですけど。 これはイスカンダルという名の庭師の物語。アラブの王が自分の名を後世に残そうとし、思いついたのが、世界一の庭を造ること。それは永遠に四季を描き、その庭を造った王の名ももた語り継がれるだろうと。 そこで王は世界中を探し、ついに名人の誉れも高いイスカンダルを見つけて呼び出し、何年掛かっても、どれだけの財を費やしてもよいから、そうして褒美もお前が一生楽しく暮らせることを保証することで、庭作りを依頼する。 王の悩みはただ一つ。庭を造った後、イスカンダルがまた別の王の元でもっと素晴らしい庭を造ること・・・。 預言者や詩人も登場し、物語(伝説)と庭のメタファが絡まり、最後まであきさせません。 ストーリー・テラー、ジズベルトの腕は確かです。 案外軽視されていることなんですが、読み終えた瞬間の快感、これって読書の喜びでして、それがこの物語にはちょいとあります。 『ミュージカル・スパイス こそあどの森の物語5』(岡田淳 理論社 1999) 説明するまでもないシリーズの第5作。 まず、今回で注目すべきは、タイトル。「ミュージカル・スパイス」! なんとすてきなタイトルでしょう。もう、それだけで心うきうき、水蒸気(小泉今日子『渚のハイカラ人魚』)です。 ドーモさんが郵便を配達に行くと、仲良しのはずのトマトさんとポットさんが何か気まずそう。次の郵便をスキッパーのところへ届けにいくのですが、やはり二人が心配・・・。 はてさて、どうなることか? 今回はトワイエさんが書いている小説の内容が明らかになります。 岡田淳は岡田淳の世界を良く知っている。 と言えば妙に聞こえるかもしれませんが、そうなんです。 『片目のオオカミ』(ダニエル・ペナック 末松氷海子訳 白水社 1992 1999) 動物園に囚われの片目のオオカミは、ある日自分をじっと見つめる黒人少年と出会う。どうせすぐあきるだろうと思っていたけれど、次の日もやはり少年はそこにいる。次の日も次の日も。もう二度と人間に興味は持つまいと思っていたオオカミは無視し続けるが落ち着かない。明日は動物園の休館日。これで、あの少年は来ない! ところが次の日、やはりいる。 こうしてついに少年と向き合ったオオカミの片目。少年の目にはもうその片目した映らない。オオカミは語り始める。自分の生涯を。 一方少年(彼の名前はアフリカだ。)もまた、アフリカでの日々を。 さまざまな寓意が込められている物語です。だからちょっと読者を選びます。 作者はかつてのフランス植民地モロッコのカサブランカ生まれたのちアジア、アフリカで暮らした(訳者あとがき)経験があるのですが、そうした文化差と支配被支配構造体験が、この物語を生んだのは間違いないでしょう。 何とも言えない浮遊感があります。 設定は、動物物語に入るでしょう。動物と少年の孤独が互いに触れることで埋められていく構造も正にそう。 『ポポが走った!』(岸川悦子 狩野ふきこ・絵 大日本図書 1999) 幼稚園、捨てられた子猫を拾うも、足が悪く、ついには手術で右後ろ足を失う子猫ポポ。でもガンバッテ生きる。小学校に上がったぼくは小児リューマチとなり、ポポの気持ちもわかる。一生懸命のリハビリ。ポポ、ガンバルぞ。 という物語。ここにはええ話しか描かれていない。それが嘘っぽく見せてしまう。もう一ひねりも二ひねりもいるでしょう。 『ロックフォール団のねずみたち』(サンディ・クリフォード作・絵 本間裕子・訳 徳間書店 1981 1999) ねずみを主人公にした、小さな冒険物語。当然、敵役はねこ。 フランス生まれのニコルはアメリカで親切な元軍人のねずみの家に、双子の子守として住み着く。おそろしいねこが住んでいると言われている森へ双子が出かけたから、さあ大変。ニコルは救いださんと森へ向かいますが、そこで出会ったのはロックフォール団と名乗る三匹のねずみたち。おそろしいねこは、単なる噂とわかりますが、それ以上におそろしいことが、ニコルに降りかかります。人間の仕掛けた罠に捕まるのです。 もちろんその救出に向かうロックフォール団! この小さな物語には、意外な展開があるわけではありません。それよりむしろ、安定した物語運びがツボ。書かれたのが1981ということは、19年前。まだ、書けたんですねー。 思いのほか美味しいクッキィを食べたような気分です。 『ぼくたちの家出』(浜野卓也 堀川真・絵 偕成社 1999) 三人の小学五年生が、様々な理由で夏休みに家出をする物語。どれもが、家出のための家出であることが、『山の向こうは青い海だった』(今江祥智)と似ていなくもないのですが、『山の向こう』のようなリアリティがないのが時代の差を感じさせます。 それと、フェミニズムとまでは言わないまでも、「男らしさ」や「女らしさ」への目線が欲しい。登場人物がそれらに対して肯定でも否定でもいいのです。少なくともそれが視野に入っていれば。 【評論他】 『世界のたね・真理をもとめる科学の物語』(アイリック・ニュート 猪苗代英徳訳 NHK出版 1996 1999) 青少年向きに優しく物事を伝える、といえば、『ソフィの世界』を思い出しますが、あれが哲学だとしたら、これはそれの科学判。 出版元をみれば同じNHK出版。なるほど。 それはともかく、これはなかなかあなどれません。 確かに主旨上、科学の歴史を網羅的に(西洋中心に)たどってはいるのですが、その処理の仕方の腕が良く、読みとおすことで、科学史ではなく、人間と科学のかかわりが把握できるようになっています。科学との距離が近くなる。 高校生位の方は、目を通して欲しいな。 |
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