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 今年前半、共同通信で担当した「14歳からの海外文学」。全七回のうち、今月は三回目を。(三辺律子)

第三回『はみだしインディアンのホントにホントの物語』
   シャーマン・アレクシー著 さくまゆみこ訳 小学館

中2女子ゆい 最近、親の転勤で転校する子が多いの。外国にも転校ってある?

三辺律子(翻訳家)  もちろん。じゃ、今日は究極の転校生ジュニアが主人公『はみだしインディアンのホントにホントの物語』(シャーマン・アレクシー著、さくまゆみこ訳)はどう?

ゆい 「究極」?

律子 ジュニアの場合、新しい学校になじむハードルが普通の転校生より、さらに高いから。彼は学校で唯一の保留地からきた北米先住民(インディアン)なの。

ゆい 保留地ってなに?

律子 ヨーロッパからアメリカに白人が来る以前から住んでいた先住民の移住地区のこと。差別を受け、失業率の高さやアルコール依存症が問題になってる。

ゆい じゃあ、保留地の外の学校に転校できてよかったんじゃないの?

律子 そう簡単でもないかな。転校先は白人ばかりだし、保留地の仲間には、裏切り者扱いをされちゃうし。

ゆい 転校先の生徒たちとは、どうだったの?

律子 彼らもジュニアも、最初はお互い接点がないって思い込んでいたけど、ジュニアは、美人で人気者のペネロピーたちと仲良くなって、それをきっかけに少しずつ学校に溶けこんでいく。
ゆい 学校のスターのペネロピーとじゃ、ジュニアは境遇が違い過ぎる気がするけど。

律子 でも、町を出たいっていう彼女の夢を聞いてるうちに、「分を超えない範囲で満足する」よう教えられてきたのは、自分も白人のペネロピーも同じって気づくの。

ゆい よく知れば、接点が全くない人なんていないのかもしれないね。


【追記】
 「古典も少し混ぜて7冊」という条件だったこの企画、選書は悩ましくも楽しい作業だったけれど、この『はみだしインディアンのホントにホントの物語』は、最初からぜったい入れようと決めていた。理由(好きなところ)は、山ほどあるけれど、今回上記のような紹介にしたのは、何人からか「とても好きな本だけれど、保留地などの設定が、日本の子どもにはとっつきにくい」という声を聞いたからだ。
わたし自身はむかしから「よくわからなくても読み続けられる」特技(?)の持ち主だったので、あまり気にならないのだが、確かに、大学の授業で映画『フリーダム・ライターズ』を見せていたときも、授業の前にロス暴動→人種統合教育の経緯を一言説明しておくだけで、学生に「映画に入りやすかった」と言われた覚えがある。
というわけで、上記の記事では紹介しきれなかったけれど、わたしがこの本でとても好きなのは、主人公ジュニアと親友のラウディとの関係だ。ジュニアとラウディは、ジュニアの障害をネタにジョークを言い合うような「荒っぽい友情」を培っているが、ジュニアは、転校することでこの一番大切な友情を失うことになる。まわりのものすべてに対し怒りを抱えているラウディは、「きみのためにはそれが一番だから応援するよ」なんて安っぽいことは、ぜったいに言わない。そんな簡単なことじゃないのだ。では、二人の友情はどうなるのか・・・まだ読んでいない方は、ぜひぜひ手に取ってみてください。

「友情」はとうぜん、児童書やYAに多いテーマだが、なぜか女子が主人公だと、嫉妬とか意地悪とかグループとか仲間はずれとか、そんな話が多い。わたしの訳す本は男の子が主人公のものが多いのも、そのせいかもしれない。例えば『盗まれたコカ・コーラ伝説』という本も、コカ・コーラの都市伝説がらみのストーリーの面白さもさることながら、出てくる男の子たちの友情が実にからりと深く、そこに惹かれたのだった【宣伝】。
元女子のわたしとしては、女の友情=べたべた、みたいに言われるのはたいへん不本意だが、実際に見ていると、女子と男子に違いがあるのも確かな気がする。幼稚園女子のお母さんが「この子、友だちとけんかして三日も口をきいていないのよ」といっている横で、今度は男子たちが大げんか。彼もいっちょ前に「おまえなんか、一生口きかない!」とさけんでいたが、一生どころか5分ももたなかった(同じようなケースを十回は見た)。
小学生の「将来なりたい職業ランキング」などを見ても、女子は「芸能人」「パティシエ」「フィギュアスケート選手」など、夢はいっぱいながらも現実の職業が並ぶのに比べ、男子はいまだ「仮面ライダー」とか「ナルト」などの「テレビ・アニメ系キャラクター」が堂々とランクインしている。そういえば、むかし幼稚園男子に「将来何になりたいの?」ときいたら、「ごみトラック」と言われ、「ごみを集める人ね?」とききかえしたら、「ううん、ごみトラック(きっぱり)」と言われたことがある。思わず、「がんばってね」と無責任なことを言ってしまった・・・。
この傾向は中学になってもまだ続く。先日、中学一年生がフルーツバスケットをしているのを見学する機会があった。真ん中に立った人が、「今朝、パンを食べてきた人」とか「早生まれの人」とか「靴下が白い人」などと条件を出してイス取りゲームをする、あれだ。中学生なのに実に楽しそうなのは男女ともに変わらなかったが、「背が高い人」とか「絵が好きな人」などと言ってしまい、総ツッコミを受けるのは、必ず男子だった。「背が150センチ以上とか、絵を習ってる人とか、客観的基準じゃないとだめなの、ほんとバカなんだから」という女子からの厳しいお言葉・・・。静岡県知事の川勝氏が、少子化対策がらみで「思春期における男女共学は一度やめてみたらどうか」と発言してしまったらしいが、その理由がなんと「女子のほうが学校の成績もいいから、男子を尊敬しにくい」から(朝日新聞より)。ツッコミどころが10以上ある発言だが、きっと川勝氏には青春時代の苦い思い出があるんだろう。
でも、本当は男女ともにいろいろな友情の形があり、それが幼児〜思春期の子どもの日常において(いいにしろ、悪いにしろ)大きな要素であることはまちがいない。だから、ステレオタイプなものだけでなく、あらゆる友だち関係を描いた本がこれからもどんどん出るといいなと思う。
(三辺律子)

*****
西村醇子の新・気まぐれ図書室(8) ――「いいね!」のアンテナ──

 テレビ東京の某テレビ番組。先日放映された回では、写真を撮りにやってきた若い外国人男性を成田空港でつかまえ、その後の撮影旅行を密着取材していた。この男性はテーマを設定せずに日本の田舎を歩き、アンテナに引っかかった事物を撮影していたが、地元の人びとの人情に触れ、また田舎の風景に感銘を受けて、自分のテーマはこれだと気づく。・・・外国に来たこの男性が、思い込みとは無縁に、感覚を頼りに自然体で行動する様子がとても新鮮だった。
気まぐれ図書室でも、アンテナに引っかかった本を取り上げているが、そこになにがしかのテーマを設けたいと思うと、なかなかうまくいかない。今回はストレートに「いいな!」と思った絵本を(時間の関係で)数点だけ。
 モーリス・センダックの絵本が2冊。コンビを組んだ相手作家は異なるが、2冊に共通しているのは、比較的初期の作品という点である。1冊目はルース・クラウス文の『ぼくはきみで きみはぼく』(江國香織訳、偕成社2014年11月)。センダックはペン画で多くの場面を描き、「友だち」のあり方は多様でいいのだと、この1冊全体で伝えている。誰かといっしょにこの絵本をのぞきこみ、自分はどっちだと言いあったらきっと楽しいだろう。
クラウスとのコンビでは、岩波書店から1975年に『あなはほるものおっこちるとこ』(わたなべ しげお訳、原1952)も出ている。今回の絵本も、「楽しく遊んでいるが、怒ったり、寂しくなったり、退屈したり」するセンダックの子どもたちが描かれている。
2冊目はジャニス・メイ・ユードリーとコンビを組んだ『ムーン・ジャンパー』(谷川俊太郎訳 偕成社2014年11月)。同じコンビでは1975年に冨山房から『きみなんか だいきらいさ』(原1961、こだまともこ訳)が出版されている。今回出版された絵本の原作はさらに古い1959年。だがここに描かれている子どもたちの、なんとのびやかなこと。ある瞬間の子どもたちの感情を豊かに伝える夜の情景は、けっして古びていないし、みるものを惹きつける。
個人的にもセンダックには特別な思い入れがある。ひとつには、幸運にもセンダック本人の講演を聴いたことがあるから[CLNEで特別ゲストのセンダックにグレゴリー・マガイアが対談したことを指す。2004年の「気まぐれ図書室」15を参照]。もうひとつは、アメリカの批評家レナード・マーカスが絵本作家をインタビューした本から、そのうちの7人について仲間とともに『英米絵本作家7人のインタビュー』(長崎出版2010)として共訳しているから。といっても、私の担当はローズマリ・ウェルズだった。でも全員で7人の絵本作家の勉強をした。だから授業で『かいじゅうたちのいるところ』や『まよなかのだいどころ』などを取り上げるときには、このときの勉強が役立っている。ところが、このインタビュー本、出版社の破産のせいで、もう流通されない本になってしまった。
もう1冊の絵本は、『よるです』(偕成社2014年12月)。作・絵の「ザ・キャビンカンパニー」とは、阿部健太朗、吉岡紗希の夫婦からなるユニットだという。つるつるした黒い表紙には、左側に大きな黄色の三日月。擬人化され、目と口がある。そしてこの三日月の下側の尖った先端に、両手を広げ、裸足で爪先立ちという、不安定なのにバランスをうまくとり、しかも楽しそうな女の子が載っている。右三分の一には上からたてがきで大きめの「よるです」という淡いグリーンの書名。シンプルながら、目をひきつける表紙だ。この女の子は、物語の主人公の「すうちゃん」だ。
暗闇が怖いのに、夜中にトイレに行きたくなった「すうちゃん」。親はぐっすり寝込んでいて、起きてくれない。弱り切ったすうちゃんに救いの手を差し伸べたのが毛布で、「ばく」に変身すると、いっしょに行ってあげると、申し出る。
確かに暗い廊下にはエスコートが必要だった。最初にぶつかったのは泥棒で、積み木の街から宝石を盗んでいる。でも、ばくがどろぼうを食べると、おしりから、どろぼうといっしょに、宝石よりもきらきら光る街が出てくる。どろぼうが街のきらめきに目を奪われているすきに先へ進むと、今度は大きなクモが天井から襲ってくる。でも、ばくがくもとくものすを食べると、おしりから出るのはクモ花火。今度は目を奪われるのはすうちゃんだ。さて、次なる障害は、おばけだった。でも、ばくのおしりから金色の大きな三日月が現れるころには、すうちゃんは怖さをすっかり忘れ、金色のトイレごと夜空に飛び出している。
暗闇を怖いと思う子どもの恐怖心を美しい情景ですっかり変えてくれるこの絵本。黒と黄色のコントラストもいいし、宝石や花火など、どれもきれいだ。ほれぼれするほどのうまさを堪能したら、ついでに「絵本 よるです CM」で検索し、メイキング映像をYou tubeで見るという、おまけが楽しめる。
本日はここまで。

*以下、ひこです。
【児童文学】
『ぼくとテスの秘密の七日間』(アンナ・ウォルツ:作 野坂悦子:訳 フレーベル館)
 家族でテッセル島に遊びに来ているサミュエルは、一歳年上の女の子テスと友達になります。彼女は母親と暮らしているのですが、父親の存在を知り、なんと彼とその恋人をイベントに当選したかのように思わせて島に招待していました。父親は自分に娘がいるなんて全く知りません。
自分が娘であると告げるかは、父親の考えを知ってからと決めているテスは、サミュエルも巻き込んで、父親と近づきになります。
 テスはどう選択するのか? そのときサミュエルはどう動くのか?
 親子とは結局何であるかを、描いていきますが、語り手をサミュエルにすることによって、子ども読者が彼の視点でこの問題を考えやすくなっています。

『ブラック・ダイヤモンド』(令丈ヒロ子 フォア文庫)
 人の中にある嫉妬や憎悪は、もちろん子どもたちの中にも生まれますが、それとどう向かい合っていくのか? 
 B.Dの謎を巡って展開する心理劇です。
 色々あって、長丁場になりましたが、五巻でついに完結!

『声の出ないぼくとマリさんの一週間』(松本聡美:作 汐文社)
 いじめで話さなくなった少年が、母親が仕事で留守をする一週間、彼女の学校時代の友人マリの元に預けられる。
 マリはゲイで安アパートに住み、精一杯生きている。差別の受けながらもまっすぐなマリに「ぼく」の心はほぐれていく。
 母親、マリ、「ぼく」などがあらかじめ決められたような配置になっていて、そこからこぼれてこないのが残念。

【絵本】
『ゆうぐれ』(ユリ・シュルヴィッツ:さく さくまゆみこ:訳 あすなろ書房)
 ゆうぐれ、少年とおじいさんと犬がお散歩。冬の町に夕陽が美しい。やがて日は沈み、クリスマスイブの夜。町の灯りが点り、町が、世界が、暖かさに包まれます。
 買い物帰りを急ぐ人、飾り付けを楽しむ人。様々な人の様々な営みの大切さと、生きていることの喜びが、じわ〜っと伝わります。

『ぼくはきみで きみはぼく』(ルース・クラウス:文 モーリス・センダック:絵 江國香織:訳 偕成社)
 子どもが自分を語り、仲良しを語る。
 子どもの気持ちが心地よいリズムで伝わってきます。
 まだよき時代の風景と言うなかれ。ほほえみながらご賞味あれ。

『地雷をふんだ象』(藤原幸一 岩崎書店)
 人間が埋めた地雷。森林だ作業をするにとっても危険な存在です。この写真絵本は地雷を踏んでしまったけれど何とか生き残った(ただし足と心に損傷)象たちを追った写真絵本です。
 私たちは本当に何てことをするんでしょうか。

『こわくない』(谷川俊太郎:作 井上洋介:絵 絵本館出版)
 おばけなんかはこわくない。とうちゃんもこわくない。先生もこわくない。と続いていく谷川の詩は、別に子どもの勇気を描いているわけではなくて、おばけもとうちゃんも先生も、そういうもんだからしょうがないと自分に言い聞かせているわけです。そして谷川は最後に戦争を持ってくる。こわくない、と。
 この詩を井上が実に伝わりやすい画で描いてくれています。
 この絵本が企画された意味は、残念ながら申すまでもなし。

『トムテと赤いマフラー』(レーナ。アッロ:文 カタリーナ・クルースヴァル:絵 菱木晃子:訳 光村教育図書)
 北欧の小さな妖精トムテの絵本です。
 あるとき私は赤いマフラーをなくしてしまう。でも、トムテが拾って有効に使ってくれているのでは?
 トムテにとっては大きなマフラーのいろいろな使い道は?
 北欧の冬の風景に楽しいお話。

『ぴっぽのたび』(刀根里衣 NHK出版)
 カエルのぴっぽはひとりぼっちです。巡り会った子羊とともに旅に出かけます。5月、6月・・・。ぴっぽはどんな友達を見つけるでしょう。
季節ごとの景色の美しさで画面を染め上げながら、幸せへと向かいます。
画力を堪能してくださいませ。

『マララさん こんにちは: 世界でいちばん勇敢な少女へ』(ローズマリー・マカーニー:著 西田佳子:訳 ポプラ社)
 たくさんのマララ本が陸続と出ています。この写真絵本は、彼女に共感し、勇気をもらった女の子たちのメッセージと笑顔が納められています。
 マララが絶対視されることは危険ですが、一歩を踏み出す力をもらった子どもたちにエールを。

『サンタクロースと あったよる』(クレメント・クラーク・ムーア:詩 ホリー・ホビー:絵 二宮由起子:訳 BL出版)
 ムーアのThe Night Before Christmas にホリー・ホビーのくっきりと躍動感ある絵が添えられ、二宮の言葉で訳された、クリスマスの贈り物です。
 クリスマス物の、発想の原点です。

『コアラのクリスマス』(渡辺鉄太:さく 加藤チャコ:え 福音館書店)
 サンタさんが忙しくて、コアラにサンタクロースの仕事を依頼。
 出来るかなあ・・・。やるしかないでしょ!
 現地で暮らしている作者ならではの発想ですね。

『水たまりの王子さま』(山崎陽子:作 安井淡:絵 岩崎書店)
 二十年前の作品が復刊です。
 スリと薄幸の少女との心の交流を描きます。窓から見下ろす病弱少女に、オスカー・ワイルドの「幸せの王子」に見立てられてしまったスリ。彼女の幸せの王子となるべく努めるのですが・・・。
 元々舞台用の物語ですので、話の輪郭が太すぎて読書向けとは言えませんが、この話を好きになって絵本に仕立てた安井の絵はなかなかおもしろい。洗練などは気にせず、ぐいぐいと自分の感動を画面に定着していくタッチは強烈です。

『ちいさなワオキツネザルのおはなし』(オフィーリア・レッドパス:作・絵 松波佐知子:訳 徳間書店)
 囚われの船から脱走したワオキツネザルは、あるお家に隠れます。家族にも見つからないように。でも食事は摂らないといけないし。
 ワオキツネザルが引き起こす様々な出来事。両親は娘を疑ってしまうのですが・・・。
 といった事件を経てワオキツネザルが家族の一員になるまでを描いていきます。
ワオキツネザルの姿、仕草が本当に活き活きとしていて、その魅力が全開。あのシッポ、いいなあ。

『スノーベアとであったひ』(サイード:作 マリーネ・ルーディン:絵 はたさわゆうこ:訳 すずき出版)
 長い、長い真っ赤なマフラーの女の子マリーが雪の中を歩いていると、真っ赤な冷蔵庫を発見。ドアを開けると現れたのはシロクマ、スノーベア。
 マリーとスノーベアの不思議ですてきな時間が始まります。
 発想の豊かさと、マリーやスノーベアを描く輪郭線のふんわり度を楽しんでください。

『よるです』(ザ・キャビンカンパニー:作 偕成社)
 すうちゃんは眠れない。トイレにも行きたくなってきた。でも、怖い。
 暗闇への恐怖から、その克服までを、とてもとても楽しく描いています。
 すうちゃんの毛布がバクになって、彼女を連れて行ってくれます。その途中がまるでカーニバルのように想像力全開です。バクですから怖い物は食べてくれますが、それよりおしりから出す出す愉快な物をね。
 この絵本がすてきなのは、暗闇、黒の深さ。そこに浮かび上がる月光色。克服って書きましたけど、そうじゃなく、夜のときめきを描いているのです。

『かっぱぬま』(武田美穂 あすなろ書房)
 日本の妖怪を素材にした武田のシリーズ絵本です。といってもそこは武田美穂。素敵にヘンです。「こわいおともだちシリーズ」ですからね。
本作はかっぱであります。かっぱが悪さをして、犬を引きずり込み、食べないでかっぱ犬にします。
さて、今度は馬を捕まえて・・・。

『クリムのしろいキャンバス』(イ・ヒョンジュ:作 かみやにじ:やく 福音館書店)
 どんよりと落ち込むような冬に空。
 クリムは部屋の中からクレヨンで雪を描き、その雪景色に入っていきます。次々と描き、世界を広げ、動物たちと時間を過ごす。
 現実から想像へ、そしてリフレッシュされた現実へ。画風は違います(流れ、揺れるような線が、不思議な浮遊感を誘います)が、センダック的往還が描かれていきます。

『おしりたんてい ププッ きえたおべんとうのなぞ』(トロル:さく・え ポプラ社)
 シリーズ四作目。
 顔がおしりの探偵という、とてもすてきに下品な設定なのですが、なぜかこれが清々しい(言い過ぎか)。
 今回は列車の中で、みんなのお弁当の中からある食べ物だけが消えている謎に挑みます。
 謎解きと、画面の中で犯人をミッケすること、そしておしりたんていならではの必殺技。
 難しくなくヒントもほどよく、上手いですねえ。

『ゆきがくれた おくりもの』(リチャード・カーティス:文 レベッカ・コップ:絵 ふしみみさお:訳 ポプラ社)
 街は雪で真っ白になり、子どもたちは学校をお休み。もちろん先生たちも。
 ところがここに、たった一人校門の前に立つ少年。そして先生。
 一人でも生徒がいる限り授業をしようと思う先生。
 一人でも先生がいる限り、授業を受けなければいけないと思う少年。
 この少年は、この先生が苦手で、先生もまたこの生徒の出来の悪さにうんざりしていたのでした!
 案の定、二人だけの授業はどんよりとしますが・・・。
 大人と子どものすてきな物語。

『サンタクロースのおてつだい』(ロリ・エベルト:文 ベール・ブライハーゲン:写真 なかがわちひろ:訳 ポプラ社)
 貼り込み写真絵本。女の子がサンタさんを手伝いたくて出かけていくお話仕立てです。
 演じているオンヤちゃんの両親が文と写真を担当していますから、「かわいいわ!」が一杯です。
 わざとらしいといえばわざとらしい作品ですが、小さな子どものかわいさで読ませます。子ども読者にとっても、小さな子どもは親近感がわくでしょうね。

『「あ・そ・ぼ」やで!』(くすのきしげのり:作 こうの史代:絵 くもん出版)
 フランスから帰国したユキは、学校でともだちを作りたいのですが、みんなはフランス帰りってことに過激に反応してしまい、トレビアーンだのシャンゼリゼだのと、質問や冗談の嵐。
話すきっかけをつかめないユキは押し黙り、それが無視の始まりとなる。
彼女の孤立を救ってくれたのはショウ。
なじめない子と、なじめない子を受け入れない集団。
いじめ云々の前にある、そんな雰囲気が伝わります。

『キュッパのおんがくかい』(オシール・カンスタ・ヨンセン:さく ひだにれいこ:やく 福音館書店)
 木の幹の子どもキュッパ。前作の博物館に続き、今回は音楽会を描きます。
 音楽が大好きなキュッパは楽隊に入りますが、実は楽譜が読めません。これじゃあ無理・・・?
 洗い物をしていると、その音がすてきに音楽。
キュッパは音楽会を思いつきます。様々な音の出る物を探しますよ。
 キュッパは、見事にキャラクターとして日本でも人気を得ましたね。

『絵で見る 乗り物の歴史100』(マイク・レマンスキー:絵 ポプラ社)
 十九世紀初頭から現代まで、機関車、車、飛行機など乗り物のイラストが満載です。ページとしても繰れますが、長い一枚の図としても眺められます。
 デザインがどう変わっていくかがおもしろいです。機械的フォルムの強調から、有機的イメージへ、そして流体力学重視。
 その変化は、私たちの感性の変化でもあります。
 こういう絵本、ポプラ社はいいものを出しますね。

『おさるのジョージピザをつくる』(M.&H.A.レイ:原作 福本友美子:訳 岩波書店)
 半世紀、人気のおさるのジョージ。福本訳の絵本が登場。
 ジョージはピザパーティに参加して張り切ってピザを作るのですが、ちょっと失敗。
 ジョージは小さな子どもの象徴であり、子ども読者はおさるのジョージを自分のように、弟のように思いながら楽しみ、幸せな結末へ。
 王道です。

『珍獣図鑑』(成島悦雄:文 北村直子:絵 ハッピーオウル社)
 珍獣といっても、象やパンダも入っています。つまり、生き残るために特殊に自然適応してきた生物たちの、その適応の過程と特徴を解説した図鑑です。
 しっかりと絵描き込まれたと無駄のない記述で、子どもにも楽しめる仕上がりです。
 最後に人間が入っているのがいいですね。

『タヌキ』(竹田津実 アリス館)
 これまでのお仕事のまとめに入って折られる竹田津さんですが、「北国からの動物記」もその一つでしょう。今作はタヌキ。タヌキって、あんまり記憶にないですが、いきなりキツネの穴からタヌキが顔を出すショットから始まって、竹田津さんの話に入っていきます。
 キツネとタヌキが行動時間と食べ物を棲み分けているって話に納得。
 写真、やっぱりいいわあ。

『村を守る、ワラのお人形さま』(宗形慧:文・写真 「たくさんのふしぎ」一〇月号)
 秋田県。村の入り口に立つまるでなまはげのような少し怖い大きな大きなわら人形。それは村を守っています。村人が総出で作る様が生き生きと切り取られています。
 岩手県。こちらは小さいけれどしっかりと村を守ってくれるその名もヤクバライニンギョウ。
 そのほか、厳しい冬を迎えるくにぐにのわら人形が紹介されています。それは地に着いた願いの現れです。

『あかり』(林木林:文 岡田千晶:絵 光村教育図書)
 生まれたときに願いを込めて灯された一本のろうそく。女の子はそれを大切にして、うれしいとき、悲しいとき、それを灯します。
 そうして時は流れていく。
 一本のろうそくを、命の灯りにたとえて絵本は進みます。

『いかだにのって』(とよたかずひこ)(アリス館)
 いかだに乗って川を下るうららちゃん。と、川からいかだにいろんな生き物がやってきますよ。それだけなのに、なんだかおもしろい。
 やがてうつらうつらのうららちゃん。川に流されてしまって、さ、大変!
 シンプルな絵とシンプルなストーリーが、ほんわか気分にさせてくれます。
 うららののりものシリーズです。

『どうぶつ川柳 ぼくだ〜れ?』(サトシン:さく ドーリー:え そうえん社)
 『どうぶつまぜこぜあそび』に続く、コンビ作品。
 動物の影と、謎かけで動物を当てるのですが、謎かけがちと弱い。もっと意外性が欲しい出来。

『日本の祭り大図鑑 1病やわざわいをはらう祭り』(松尾恒一 ミネルヴァ書房)
 日本の祭りの歴史とその有り様を紹介するシリーズです。個々の祭りをそれほど深く掘り下げているわけではありませんが、それらをまず全体として把握するのには使えます。
 なにやら底の浅いナショナリズムが台頭し跋扈し始めている昨今、足をすくわれないためにも、こういう知識も入れておくのはいいと思います。

『日本昔ばなし 仙人のおしえ』(おざわとしお:再話 かないだえつこ:絵 くもん出版)
 小澤俊夫監修のシリーズです。小澤の昔話はすでに広く知られていますから、このシリーズは金井田の画を楽しみましょう。版画の表情の豊かさ、絵の仕草の活き活き度、どの場面を描いているかなどですね。

『とうめいのサイ』(くすはら順子 文研出版)
 自分の姿形をすきになれないサイは、自分を消したいと願い、それは叶うのですが、今度は誰もサイに気づいてくれません。その不安さ、頼りなさにサイは・・・。
 予め解っている結果に向かって行くには、もう一ひねりください。


【その他】
『僕たちの国の自衛隊に21の質問』(半田滋 講談社)
 安倍政権による集団的自衛権拡大解釈。「武器輸出三原則」の廃止。「国防の基本方針」廃止と「国家安全保障戦略」の導入。守る国から戦える国へと変えられつつある現在、自衛隊はどうなるのか? をYAに向けて解説しています。
 選挙戦に突入した今、有権者にとっても判断材料の一つになる本です。YA向けだから読みやすいし。