じどうぶんがくひょうろん


No.10 1998/10/25
           
     
*発行年は「原著年/訳年」です。

『くるりんぱ1』(マルタン作 フレーベル館 1998 1300円)
 タイトル通りの絵本。ワニの口の絵がひっくり返すとヘビになる。クジラがカラスに。と言った具合。とてもスタンダードな企画絵本。でも子ども時代の、こうした驚きは結構心に残るものです。発見の喜びですね。
 ただ、表紙や奥付が、天地を決めてしまっている。ここも「くるりんぱ」といければいいのに。

『サマロブシネマ』(西田俊也作 小学館 1998 1400円)
 著者への私のメールが著者のサイトに転載されています。
http://plaza14.mbn.or.jp/~toshiya_n/hico1.htm

『ブタはともだち』(マーク・ティーグ作・絵 小宮山みのり訳 徳間書店 1994/1998 1400円)
 ウェンデルの部屋はいつもちらかりっぱなし。母親が言ってもだめ。ある日、彼に部屋にブタが住みつく。ブタは部屋が散らかっていても気にしない。ならぼくもいいやとウェンデル。とまた別のブタがやってくる。次から次ぎに、ブタが増えて・・・。
 教育絵本として読んでしまったらつまらない。そうなりかけのところで、ユーモアの転じている、そのバランスの良さがいい。
 50年代アメリカンテーストの絵が好み。
 
『エマおばあちゃん』(バーバラ・クーニー絵 ウェンディ・ケッセルマン文 もきかずこ訳 徳間書店 1980/1998 1300円)
 エマおばあちゃんは72歳。しましまネコの「かぼちゃのたね」と暮らしている。誕生日、集まった子どもたちは、おばあちゃんが寂しかろうと、故郷を描いた絵をプレゼント。壁にかざってみるけど、どうもしっくりこない。これは私の故郷じゃない。で、エマおばあちゃん、イゼール買って、自分で記憶の中の故郷を描く。何枚も何枚も。でも子どもたちに悪いからと、彼らが来るときはプレゼントの絵を掛けるようにしていたけれど・・・。 「心温まる」という言葉を使ってもちっとも恥ずかしくない絵本。

『あわてんぼうのめんどり』(パトリツィア・ラ・ポルタえ アレッシア・ガリッリさく  せきぐちともこ/やく フレーベル館 1996/1998 1200円)
 ペルビンカはあわてもの。だからいつも鶏小屋はさわがしい。ある日のペルビンカ、愛するひよこが牧場の牛の足下にいるのを発見。おおいそぎで助けにいくとそれはキンポウゲ。じゃ、わたしの子どもたちはどこに? とペルビンカ、次から次へと、色んなものをひよこと間違えながら、駆けめぐる。このなんともいえない粗忽なペルビンカのあわてぶりが、勢いのある絵によって活き活きを表現されている。結局ひよこたちはいつものように鶏小屋にいて、母親はどこにいってたんだろうってことになるけれど、そうしたサークル(巡り巡って元通り)話のリズム感が、この絵本の背骨。

『ふしぎの時間割』(岡田淳作絵 偕成社 1000円 1998)
 朝から始まって一時間目、二時間目と進み、放課後から夜まで、次々と主人公を変えながら(つまりは短編連作)様々な不思議を描いていく。
 ほんとうに岡田淳らしい、「良質」な作品。そのどれもが、起こり得るような、いかにも学校の風景での不思議。
 しかも当然今回も絵も岡田が描いているけれど、絵は単に挿し絵じゃなく、文と綺麗に絡まっている。それはやはり著者自らが描いているからの強み(カニグズバーグなんかもそうですね)。

『赤毛のアンの翻訳物語』(松本侑子 集英社 1700円 1998)
 数年前、「赤毛のアン」の新訳を出した著者の、翻訳にあたっての情報収集ノウハウを開示した書物。松本訳は、モンゴメリーがどのような先行作品を引用しているかをかなりな量で探り当てているが、その過程を記した書物ということになる。高価なCD-ROM検索から、やがてはインターネットでの探索、そしてついに自らのサイトを立ち上げ、そこにアンに関わる文献を電子ファイルにして公開するに至る記録は、わずか数年で大きく進化していっている電子メディアの歴史そのものとも言える。
http://www.asahi-net.or.jp/~HH5Y-SZK/yuko/yuko.htm

『動物たちのひとりごと』(イダ・ファン・ベルクム作 野坂悦子訳 あすなろ書房 1000円 1997/1998)
 小さな小さな、動物話。爆笑というわけでなく、ちょっとトボケた動物たちの妙。ティータイムにちょいと広げて読むって感じ。ほっこりします。

『ケチルさんのぼうけん』(たかどの ほうこ さく・え フレーベル館 1200円 1998)
 けちのケチルさんが、なんでも100倍になる木があると聞いて、そこまでの途次には山賊がいるというのに、一世一代の冒険にくりだす。「けちのケチルさん」というネーミングからして、もう、これはお約束通りに笑わせてくれます。へたな人が書くとしょもないものになるでしょうが、そこはたかどの、その手並みはさすがで、気持ちよくオチまでたどり着ける、絵本。

『ふわふわ』(村上春樹文 安西水丸絵 講談社 1200円 1998)
 おなじみゴールデンコンビによる、絵本。
 長編と同じく、ここでも語り手はぼくなのだけれど、ここは素直に村上自身の子供時代のネコとの記憶と読んでしまったほうがいいでしょう。細工はあるんだろうけど、あえて無視してね。そうすると、村上ワールドに於ける、ブツ(人間でも、ネコでもピンボールマシンでもいい)とぼくの関わり方の原点みたいなものが見えてくる。ま、だから細工はあるってことなんでしょうけどね。

『百人の王様/わがまま王』(原田宗典 岩波書店 1400円 1998)
 最初の「百人の王様」は自分の子どもが幼稚園児だったころに、彼の為に書いた物語で、それが周囲の人に好評で、「もう少し大人向けの『わがまま王』を書いてみたしだい」とは、著者の帯のコメント。
 挿し絵も原田自身が描いていて、それはやはり、岡田淳と同じくいいんやけれど、「「百人の王様」は自分の子どもが幼稚園児だったころに、彼の為に書いた物語で、それが周囲の人に好評で、「もう少し大人向けの『わがまま王』を書いてみたしだい」といった、ノリが、基本的にヘン、だと思うのは私だけかしら?
 ストーリー自体は、寓話としてなら、そんなに悪くないけどね。