絵本、むかしも、いまも…第30回
「しろくまちゃんのほっとけーき ―共同合議の絵本作り―」

『しろくまちゃんのほっとけ一き』(わかやまけん絵と文 こぐま社刊)
竹迫祐子

           
         
         
         
         
         
         
    
 ぽたあん/どろどろ
 ぴちぴちぴち/ぷつぷつ
 やけたかな/まあだまだ
 しゅっ/ぺたん/ふくふく
 くんくん/ぽいっ
 はい できあがり

とくれば、ご存知『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社刊)。
今にもほんのり甘い香りがただよってきそうな、ホットケーキ焼き上げプロセスを一見開きに展開した名場面。十二冊の「こぐまちゃん」シリーズの中でも、最も人気の絵本です。
 人気の秘密は、もちろん、子どもたちの大好きな食べ物の絵本であること。しかも、主人公のしろくまちゃんが、おかあさんと一緒にホットケーキを焼くプロセスが丹念に描かれていて、期待を大いに盛り上げてくれるところでしょう。道具をそろえ、材料をそろえ、途中で、卵をうっかり落として割ってしまったり、粉をこぼしてしまったり…。子どもたちが実際に体験する失敗や喜びが、実に素直に描き出されているのです。
 表紙には「わかやまけん」とだけ表記してありますが、この絵本シリーズの企画・制作にあたっては、グラフィックデザイナーであった若山憲の他、教育者で『はらぺこあおむし』(エリック・カール作・偕成社刊)の翻訳者でもある絵本作家の森久保仙太郎(森比佐志)、劇作家の和田義臣に編集者の佐藤英和が加わり、共同合議でこの絵本は作られたといいます。大層、めずらしい作られ方です。正直、それがシリーズのすべてで成功したとは言えませんが、この『しろくまちゃん…』は、共同合議の利点、例えば、子どもの姿の抵え方や感性の反映のさせ方などが、上手くひとつにまとまったと言えるでしょう。何より、読者である子どもたちから、愛されつづけていることに、その成功が表れています。
 ところで、この絵本、どこかで見たことがあるような…。そう、ディック・ブルーナの「うさこちゃん」です。ブルーナが登場した当時、小さい子どもには、はっきりとした輪郭線と単純明快な色彩が一番と高く評価され、ブルーナ旋風が吹き荒れたもの。作者の若山憲も、ブルーナを意識して作ったと語っています。でも、はっきりした輪郭線と単純明快な色彩…、本当にそれが一番なのかなあ? と、少々、疑問の私です。この絵本を、きゃっきゃっと楽しんでくれた四歳の女の子から思わぬ質問が飛び出しました。「なんでしろくまちゃんのお口、への字口なの? ホットケーキおいしくできたのにね」子どもはすごい! 類型化され、デザイン化されたキャラクタ一表現の限界…なんぞという問題を、いともあっさりと指摘してしまう。アハハ。何となく胸につっかえていたモヤモヤが晴れたような痛快な一言でした。

徳間書店「子どもの本だより」2002.5-6 より
テキストファイル化富田真珠子