絵本、むかしも、いまも…

第31回「境界線を持たない新しい感覚 ―堀内誠一―」
『ぐるんぱのようちえん』(西内ミナミ作/堀内誠一絵/福音館書店刊)
竹迫祐子

           
         
         
         
         
         
         
    

 音楽で喩えるなら、ボッサ・ノヴァ。それが、堀内誠一(1932〜1987)という画家の極めて私的なイメージです。酒落ていて、繊細で美しく、楽しく、優しく、時に悲しく。そんな感じです。堀内誠一という人を紹介するのは甚だ厄介で、その肩書き(?)は、絵本画家、イラストレーター、アート・ディレクター、グラフィック・デザイナー、編集者、ブックデザイナー、絵本研究者 etc. etc.。このカタカナ職業の行列を見ると、まるで今の人のように思われますが、彼が活躍したのは、驚くなかれ1950年代からですから、その先駆性がわかるというもの。『an・an』『クロワッサン』『たくさんのふしぎ』『BRUTUS』『平凡パンチ』『popeye』『Olive』等々、馴染みの雑誌たちのタイトル・口ゴは、どれも堀内誠一の仕事です。
 堀内は、1932年に東京の向島で生まれます。父親は図案家。当時の日本では先進的な職業の父を持ち、文字通り「蛙の子は蛙」「門前の小僧…」として、堀内はグラフィック・デザインというものの中で呼吸し、育ちました。1947年、弱冠十四歳で、家計を助けるために、伊勢丹百貨店宣伝部で働きはじめます。まだ、敗戦日本が次の方向を決めかねていたこの時代、多感な少年は、最先端を行く百貨店で、外国のファッションや広告を肌で感じ取ります。この経験は、生まれ育った環境と共に、彼の大きな財産となったことでしょう。果たして堀内誠一というアーティストの中には、様々な意味で境界線が存在していないように思いますが、その理由はこのあたりにあるのかもしれません。ジャンルや、外国と日本、田舎と都会、新しいものと古いもの等、あらゆるものの境界線を、躊躇なく越えて、堀内独自の肌で捉えた時代の新しい感覚で造形していく。
 西内ミナミさんとの絵本『ぐるんぱのようちえん』は、私の大好きな絵本のひとつ。大きくなって、何もしないでブラブラしていてはいけないと、働きに出ることになった象のぐるんぱ。ビスケット作りやお皿作り、靴やピアノや自動車作りで働くのですが。悲しいかな、どれも象サイズ、大き過ぎて使えません。しょんぼり、がっかりのぐるんぱ。ところが…。一見、子どもが描いたようなラフな雰囲気を持ちながら、色の組み合わせも、こちょこちょこちょこちょ描きこんだような画面作りも、描かれた小物まで、どこか酒落ていて、可愛い。明るく、モダンなその絵を見ているだけで楽しい気持ちになる堀内ワールドです。
 1950年代の終りに、ブラジルの都会風サンバからジャズの影響を受けて生まれたボッサ・ノヴァは、旋律と和声とリズムが渾然一体となって成立する音楽。その言葉は、「新しい感覚」という意味だそうです。なるほど。

テキストファイル化富田真珠子