|
徳間書店の移転に伴い、児童書編集部も東京は芝大門に移りました。小さなビルが並ぶ路地を探検していると、いるんです! 狭いビルとビルの間にネコたちが。 ビルの隙間に誰かが置いた傘の下で、うずくまっている二匹。それから鼻先だけちょこんと黒ブチのある親子。呼びかけると警戒心も露わに、すっ飛んでいくところをみると、野良ネコのようです。 例えば『夏のねこ』で、姉弟が家の前のりんごの木の上で見つけたまだ子どもの三毛ネコは、触っても逃げないネコでした。 弟のベンはネコに「りんごひめ」と名付け、自分のネコのようにかわいがりますが、やがて野良ネコではないとわかるのです…。 ベンがどういう心の葛藤を乗り越えてりんごひめをあきらめ、飼い主のおばあさんに返すのか…? 小さな男の子が初めて迎えた、本当に辛い忍耐の場面を優しく描く物語です。 どこから見てもザ・野良ネコといえば、『公園ののら』の「のら親分」。公園を美しく保っている、公園の庭師さん、オーケストラの団長、トイレ掃除のおばさんも、自由奔放でしたい放題ののら親分には閉口。植え込みをほじくるわ、トイレでおばさんにバケツをひっくりかえさせるわ…。でも、決して捕まらず何年も何年もこんな調子。 ある日、ひょんなことから、のら親分は公園から連れ出されてしまいます。のら親分がいなくなってみんな清々したでしょうか? いいえ、みんながみんな物足りなく感じたのです。人間側は自分でも気づかずに、嫌われ者の野良ネコを隣人として愛していたのでした。 最後に、野良ネコと飼いネコの境界線について考えさせるのは、『猫の帰還』の主人公ロード・ゴード(ゴード 卿)という名の黒ネコ。空軍パイロットの主人を探し求め、連れて来られた疎開地をあとにし、第六感を頼りに長い旅に出ます。このサバイバル・ネコのしたたかさ! 自分に好意的な人間を嗅ぎ分け、臨時のご主人を見つけては、旅の休息を得ますが、ネコにとってはただ必要からしていること。ところが、戦時下の不安な空気の中、ロード・ゴードと関わる人間たちはこのネコに特別なものを感じ、何かしら<生きる力>を見出していきます。 元飼いネコの流れネコとでも言いましょうか? ふーむ…こうなると、ご近所のネコたちもただ流れている最中なのかもしれません。飼いネコと野良ネコの境界線なんて案外あやふやなもののようです。 こうして見ていって一つ気になるのは、とにかくネコの方はいつだって気ままに自分の意志で行動していること。一方人間といえば好きになったり、嫌ったり、前向きになったり…ネコに振り回されてるだけでは…と感じるのは私だけでしょうか?(筒井) 『夏のねこ』ハワード・ノッツ作・絵/前沢明枝訳 『公園ののら』ダイアナ・ロス作/エドワード・アーディゾー二絵/坂崎麻子訳 『猫の帰還』ロバート・ウェストール作/坂崎麻子訳 徳間書店「子どもの本だより」2002.7-8 より テキストファイル化富田真珠子 |
|