『黒ねこのおきゃくさま』
 ルース・エインズワース作
荒このみ 訳/山内ふじ江 絵

ルース・エインズワースの作品から


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 冬の夜の不思議な出来事を語ったお話はたくさんあるが、『黒ねこのおきゃくさま』は、その中でも珠玉の作品。
 冷たい雨が降る夜、貧しい一人暮らしのおじいさんの家に一匹の黒ねこが訪れる。おじいさんは、びしょぬれでみすぼらしい黒ねこを暖かく迎え入れるが、黒ねこが哀れな声で鳴きたてるので、乏しい食べ物を、土曜の晩のとっておきのご馳走までも残さず与えてしまう。そればかりか寒さに震える黒ねこのために、最後の薪も使い果たしてしまう。翌朝黒ねこは、雪景色の中へと去っていく。「さよなら、わしの友達よ」空っぽの家に残されたおじいさんの元にもたらされたものは…食べ物と薪。しかし何よりもおじいさんの心を慰めたのは、黒ねこへの友情だった。さりげない背景の中に表情豊かに描かれた黒ねこはとても魅力的。猫好きでなくても思わず惹きつけられてしまうだろう。
 かつてこの話(瀬田貞二 訳)をストーリーテリングできいたことがあるが、その時の猫の鳴き声が今も耳に残っている。
 ストーリーテリングといえば、エインズワースの作品の中で良く語られのが、『こすずめのぼうけん』(石井桃子訳/堀内誠一 絵/福音館書店)。語っていると、子ども達がこすずめと一緒に冒険しているということが、その表情から良くわかる。それが嬉しくて語りに熱が入ってしまうのだが、「お話は聞き手と語り手が一緒に作り上げる」ということが実感できる素晴らしいお話。絵本は、くっきりとした目のこすずめがかわいらしく印象的。
 『ゆうびんやさんはだれ?』(河本祥子 訳・絵/福音館書店)も長く読みつがれている一冊。庭の郵便屋さんに立候補した猫、リス、犬の三匹。それぞれが一日ずつやってみて、一番上手に出来たものが郵便屋さんになることにするが…。さて結果は?背表紙から華やかで明るく、目をひく装丁の本。柔らかい色彩の絵も楽しい。
 冬の夜、心安らぐエインズワースの世界をお楽しみください。(早乙女 由美子)
「図書館の学校」2000/02