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『バッテリー3』が出た。『バッテリー』(第35回野間児童文芸賞)、『バッテリー2』(第39回日本児童文学者協会賞)に続く三球目。今度も、スピードのある直球が飛んできた。ずしりと確かな手ごたえ! テレビでも、マンガでも、そして今やゲームでも、「スポーツ」は花盛りである。ふりかえって、児童文学では…これがさびしい限りなのだ。あなたを夢中にさせた作品がいくつあるだろうか? 確かに「筋書きのないドラマ」といわれるスポーツを、事実以上に迫力のあるおもしろい作品に仕上げるのは難しいかもしれない。しかし、比較して申し訳ないが、マンガの世界では、スポーツは時代を敏感に察知しながら、全種目網羅するほど描き続けられてきた。ヒット作も少なくない。それらは読み始めるとやめられないほどおもしろい。読み進むうちに、運動オンチにもルールがわかり、自分も競技に参加しているような高揚感を味わい、登場人物と友達になったような親近感をもてるものもある。 『バッテリー』には同様の魅力があった。映像が浮かび、球音や登場人物たちの会話が聞こえ、マウンドに吹く風と土埃の匂いを感じた。 また、文学が得意とするところの成長物語としてもよく描けている。 球を投げるために生まれてきたような稀有な才能をもつ少年、原田巧。彼は、中学入学直前、父親の転勤で新田市に来て、捕手の永倉豪と出会い、最高のバッテリーになることを確信する。巧は、仲間との心の通じあいとかチームの成長などには興味がなく、自分の最高の球を投げる、そのことだけに唯一意味を見出す「超ジコチュー」タイプ。一方豪は、優しい性格で人間的度量も大きく、巧の激しい気性もさらりと受け止める。人を見る目が鋭く状況認識ができるタイプ。物語は、この二人を軸に展開する。 巧の才能と性格は、周囲に感動・賞賛と反発・挑戦の波風を立てる。部活では、同級生とぶつかり、先輩ににらまれ、暴力事件発覚。部活停止処分を受ける。元高校野球の監督だった祖父は、巧の才能と絶対的自信に、期待と同時に強い不安を感じている。あまりに無防備な裸の才能の前に、皆、自分の鎧を脱いで、本音で、ときには体を張って処してくる場面には、読み手も心地よい緊張を強いられる。 試合でいえば前半終了、これから中盤戦。一嵐も二嵐もきそうな予感。巧とはちがうタイプの野球で追い上げてきそうな弟・青波の成長も含めて、物語の今後の展開が楽しみである。 吉田美佐子(狛江市上和泉地域センター 新刊を読む会) |
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