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はじめに 雪印乳業大阪工場の乳製品による集団食中毒事件や、三菱自動車工業が乗用車などのクレームに関する書類を隠ぺいし、リコールを怠っていた問題、数々の医療ミスなどが、今年くらい騒ぎたてられた年はないといっても過言ではないだろう。毎日のようにマスコミを騒がさせ、いささか神経が麻痺しているように感じるのは私一人だけだろうか。 一方、目を出版界にむけてみると、児童書の大手の出版社では値段表示を間違え、絵本一冊に一万以上の表示をしたり、また、ある出版社では、内容が違っていたりと、初歩的なミスが起こっている。ある出版社に間違いを指摘し、どう対処するのかと聞いたところ、二刷りからなおすという、甘い回答だった。人の生命にかかわることではないのでマスコミにはとりあげられてはいないが、それでいいのだろうか。出版社は自分の会社の商品には責任をもつべきであろう。私たち図書館員も日々の仕事には責任をもつべきであるということをそれらの報道があるたびに考えてしまう。 「子ども読書年」だったけれど 今年は「子ども読書年」ということで、国をあげていろいろな角度から事業を展開している。また。各自治体でも、「子ども読書年」という冠をつけて、さまざまなイベントをしている。では、「子ども読書年」を記念して、図書が出版されたかというと、本の帯に「子ども読書年」のシンボルマークと標語が載っているのを目にした程度で、あとは、『子どもに翼をあたえるために 子どもの本の出会い・実践記録集』(読書推進運動協議会/発行)が出版されただけである。この数十年私は児童書を見ているが、今年だからといって目立った本があるかというと、頭を抱えてしまう。全般的に見ると、図書館で一冊は入れておいてもいいが、複本で揃えるような本がない。よって、子どもたちに長く読み継がれていく本がないのではないかと懸念される。そんな中、文句なく楽しめた本といえば『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(J・K・ローリング 作/松岡佑子 訳)。まるで映画でもみているような錯覚にとらわれる本である。よく、この本は一般書ではないかと言われるが、子どもの中にも大ファンがいる。先日、第三巻を原書で読みたいという小学四年生の男の子がやってきた。 次は、死というものをテーマにしながらも、読後やさしい気持ちにさせてくれる『さよならエルマおばあさん』(大塚敦子 写真・文/小学館)が心に残った。「多発性骨髄炎」という血液の癌にかかり、余命一年と医者から告知されたエルマおばあさんが、死を迎えるまでの一年間を、飼い猫の目を通して綴った写真絵本。著者とエルマおばあさんの親密な交流があったからこそ、感動的に仕上がった作品といえよう。著者のあとがきで、写真を撮ってもいいけれど、入れ歯をはずした写真は撮らないでとエルマおばあさんが言ったという記述がある。私はその箇所を読んで、エルマおばあさんの深みのある人間性に感服した。この本を介し、子どもには生きていくことの大切さを考えてほしいと切に思う。 日本の作品では『ざぼんじいさんのかきのき』(すとうあさえ 文/織茂恭子 絵/岩崎書店)。ざぼんじいさんの柿の実はとびきり甘い。ある日、ざぼんじいさんの隣にまあばあさんが引っ越してくる。まあばあさんが挨拶に行くと、ざぼんじいさんは柿の実ではなくへたをあげる。そのへたをうまく使ったまあばあさんは……二人のやりとりがユーモラスな絵本。アクリル絵の具を使った絵は躍動感にあふれ好感がもてる。 ブックスタート 1992年、イギリス・バーミンガム市で始まったブックスタートが日本でも脚光をあびている。この事業は、本を通して赤ちゃんとの楽しいひとときをつくる運動として「『子ども読書年』推進会議」が進めている。図書館でのおはなし会の参加者を見ていると、低年齢化が進んでいる。また、親は子どもに本を読んでやるということに強い関心を持っている。絵本は自分たちで手にとって選んでいるが、絵本から読み物へ移る子どもに読んでやる本はないかという問い合わせも多い。そんな時『おはなしのろうそく』(東京子ども図書館)をよく紹介するが、他にも『子どもに語るアイルランドの昔話』(渡辺洋子・茨木啓子 編訳/こぐま社)や、復刊された『世界のむかしばなし』(瀬田貞二 訳/のら書店)を紹介している。ブックスタートを機会に、親と子どもが本を通して、至福の時間を過ごしてほしいと願わずにはいられない。 黒沢 克朗(調布市立中央図書館) |
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