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「スペインの児童文学ってどういうのかしら?」大学でスペイン語を専攻した私は、卒論の題材にスペインの児童文学を選びました。保母だった母の影響もあって成人してからも子どもの本が大好きでしたし、スペインの児童文学なんて聞いたことがなかったからです。 春休みを利用して語学研修に行った先は、ただ単にサッカーが強いというだけで選んだバルセロナでした。素晴らしい児童文学の作品を見つけるぞと意気揚々と書店に入った私は息をのみました。まず目に入った本はディズニー。そして、書棚に並ぶ本は、量は多いのですが、どれがスペインの作家かわかりません。(なにせ全部ローマ字なんです)そこで、児童図書館に行って「スペインの作家で有名なのは誰?」と単刀直入にききましたが、大した成果は得られませんでした。帰国後、運のいいことに、スペインの児童文学作品を翻訳するという大学の先輩を教授に紹介してもらい、彼女から様々な情報を得て卒論は無事完成しました。現在ではこの先輩とその三人のお子さんと一緒にバルセロナで生活しています。先輩はバルセロナの大学院で児童文学を研究なさっていますが、私は楽しく暮らしています。そんなわけで、『ドン・キホーテ』の国の児童文学と子どもを取り巻く文化について、あまり学究的でない立場から語ってみたいと思います。 スペインで子ども向けに本が書かれるようになったのは十九世紀後半になってからです。二〇世紀に入り、子ども向けの創作は活発になります。一九二〇年代からから三〇年にかけて、質が高く、子どもが楽しく読める作品が数多く出ました。けれどもその後、内戦の勃発(一九三六〜三九)とそれに続くフランコ将軍の独裁(一九三九〜七五)により、多くの作家や知識人が亡命を余儀なくされ、文化活動は停滞しました。児童文学についても同様で内戦前の作品は発禁になりました。 この時期に育ったスペイン人は、「子どもの頃には読む本がなかった」と言います。というのも内容的にはフランコの政策とキリスト教道徳観に則ったものが殆どでしたし、一方、経済が低迷し物資全般が不足していた時代、本を買うどころではなかったのです。それでも児童文学の活動は細々と続けられ、六〇年代・七〇年代に入って政策が緩和されると、少しずつ作品が増えてきます。そして、スペインの児童文学が目覚しい発展を遂げるのは政治の民主化が進む八〇年代からです。(長谷川晶子)
「図書館の学校」2000/01
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