スペイン児童文学の話(03)
サン・ジョルディの日

「新刊児童書展示室だより」TRC 2000/04

長谷川晶子


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 スペインにはたくさんのお祭りがあります。ほとんどがキリスト教に関する祭りで、「今日は聖○○の日」というふうに、実は毎日が祝うべき日なのですが、重要な日のみ国や地方単位の祝日として残っています。四月二三日はサン・ジョルディの日です。サン・ジョルディはカタルーニャ州の守護聖人で、非常に重要な聖人ですが、この日は学校も会社もお休みにはなりません。さすが働き者のカタルーニャ人です。
 さて、日本ではサン・ジョルディの日は「本の日」として有名ですが、発祥の地では「恋人たちの日」としても重要です。男性は愛する女性に赤いバラの花を、そして女性は男性に本をプレゼントするのが習慣になっています。バラの花の由来は、サン・ジョルディがドラゴンを退治して王女を救ったときに、ドラゴンの血からバラの木が生え、この赤いバラをサン・ジョルディが王女に捧げたという伝説です。その後サン・ジョルディは「ぜひ娘と結婚して」という王の願いにも関わらず、王女を残して、別な地で困っている人々を助けるために去っていきます。なんて格好いいんでしょう。四月二三日が本の日とされたのは一九二三年のことで、「ドン・キホーテ」の作者セルバンテスの命日にちなんで祝われるようになりました。サン・ジョルディの日の実態としては、特に「愛する女性」だけにバラを贈るようではなさそうです。わたしが以前住んでいたアパートで一緒に下宿していた男の子は、わたしと下宿のおばさんに「義理バラ」をくれましたし、そのおばさんは、亡くなった息子さんのために毎年バラを買うそうです。また、男性だけが本をもらえるのでは不公平だと思っていたら、案の定、 本の好きなある女の子は女友達からきれいな装幀の本をプレゼントされて喜んでいました。かくいうわたしは本を贈る相手もいなかったので、自分自身に「サン・ジョルディ」という絵本を、家の近くに出ていた露店で買いました。お店のおばさんは親切にもかわいらしいクマ柄の包装紙で包んでくれました。
 本屋さんにとっては一年で本が一番売れる大切な時期で、すべての本が十パーセント引きで売られます。多くの作家が書店を駆け回ってサイン会を行い、そのスケジュールは当日の新聞に詳細に記されます。街のいたるところに本やバラの花を売る露店が立ち並びます。
「祭りが商業的すぎる」と批判する声もありますが、自分が想っている人のために一輪のバラを買い、相手が好みそうな本を選ぶ、そして春の盛りを祝う、とても美しい祭りです。