スペイン児童文学の話(05)

「新刊児童書展示室だより」TRC 2000/06

長谷川晶子


           
         
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 グラナダに行ってきました。ギター曲でも有名なアルハンブラ宮殿を訪れました。その美しい庭園を眺め、建築物に施されたイスラム装飾を見て、ああなるほど、スぺインは、アラブ世界へ歴史的にも地理的にも近いのだとつくづく感じました。スぺインの歩んできた諸文化の入り乱れた歴史は、この国に多様性をもたらしています。それは独裁後の新しい児童文学にも現れていると言えます。そういった作品のひとつが、ジョアン・マヌエル・ジズべルト作『イスカンダルと伝説の庭園』(徳間書店、l999年)で、世界一の庭園を造ろうとするアラビアの王と、その命を受けた建築師の物語です。作者のジズべルトは、異国や架空の地を舞台とした空想的な物語を得意とする作家で、『アドリア海の奇跡』(徳間書店、l995年)も翻訳されています。
 一方で、現代社会を扱った作品も紹介されています。ヘスス・バリャス作『とになりにいるのはだれ?』(岩崎書店、l994年)は、親が共働きのために家の中に閉じこめられて過ごす子ども同士が、マンションの壁の向こうとこちらで連絡を取り合うというお話です。両親はそれぞれ忙しく働き、子どもの相手もろくろくできない、道路に出ると車がいっぱいで危ない…など、国や地域を問わない、現代の子ども(とおとな)の抱える問題がでてきます。ジョルディ・シェラ・イ・ファブラ作『ビクトルの新聞記者大作戦』(国土社、l998年)は、主人公ビクトルが自分の町について新聞を作ろうとして様々な騒動を起こす物語です。
 子どもたちに振り回されるおとなたち。子どもの視点からおとなの社会が鋭く、そして皮肉をこめて描かれています。どちらの作品も、スぺインでも日本でも子どもは同じなのだと認識させてくれます。(長谷川晶子)