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'60年代から'70年代にかけてアメリカで起こった価値観の大変動は、世界中に報道され、若者たちを中心に大きな波及効果をひき起こしました。人種差別撤廃運動、ヒッピー・ムーブメント、ベトナム反戦、ウーマン・リブ、そして離婚の増加、麻薬…。 「神から与えられた土地」に強く大らかで明るい世界を築く、という「アメリカの夢」の陰に、おおい隠されてきた多くのひずみが、一気にふき出してアメリカの社会は激変してゆきます。 社会と家庭の変化を受けて、子どもたちがどのように変わったか、ということを鮮やかに著わした本に、『子ども時代を失った子どもたち』(ウィン著/平賀悦子訳/サイマル出版会刊)があります。題名が端的に示しているように、大人が従来の大人の役割―すべての困難や苦しみや醜いものは子どもには見せず、安心して遊んでいられるようにする―を放棄し、変わっていったために、子どもたちは従来の意味での「子どもの時代」を失った、というのです。多くのアメリカの親たちや子どもたちへのインタビューに基づいて書かれたこの本は、自分の愛情関係について子どもに相談する親、10歳になるかならないうちに麻雀・性・暴力等に直面する子どもたちなどが登場します。この時代の流れがもう後もどりさせることのできない勢いをもっていることが、この本からは感じとれます。 インディアンたちがもう二度と、白人のいない大地に昔ながらのやり方でくらすことができないのと同じように、現代のアメリカの親や子どもたちも、変化を経験する前の「夢」によって生きることはできないのです。アメリカの児童文学の世界に、「問題小説」と呼ばれるものが大量に現れたのは、この同じ時代でした。さまざまな「問題」に苦しめられる子どもたちを描いたこれらの作品の大半は、しかし残念ながら「問題を描くために子どもを出してきている」(アメリカの編集者談)ものが多く、質的に満足できるものがありませんでした。 そんな中で、黒人の女性作家ヴァージニア・ハミルトンは、意欲的に質の高い作品を書き続けている一人でしょう。『ジュニア・ブラウンの惑星』(ハミルトン作/掛川恭子訳/岩波書店刊)の主人公の一人バディーは、天涯孤独で、家もない貧しい黒人少年で、学校にも居場所がありません。けれどもこの作品は、そんなバディーの苦しみを描くのではなく、逆にバディーこそが、裕福ではあっても心に問題を抱える友だちや、失意の大人や、もっと幼い家のない子どもたちを支え、互いに結びつけ、新しい世界を作っていける人間だ、としている点が痛快です。 後もどりをすることはできなくても、混沌の中に、新しい「夢」を築いていくことはできるでしょう。バディーが「たがいのために生きる」という自分なりの夢を見つけたように。 新しい「アメリカの夢」に、期待していきたいと思います。 (了) |
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