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子どもは人形が大好きです。大人にはよくわからないこみ入った人形の名前やら物語やらを作りあげ、話してきかせてくれたりします。 人形は子どもよりも小さなものです。子どもにとっては大きすぎてわかりづらい「世界」も「生きること」も、人形の世界にうつしてみると、よくわかるのかもしれません。 『人形の家』(ゴッデン作/瀬田貞二訳/岩波書店刊)には、四人の人形が登場します。過去に心ない子どもに痛めつけられたため気弱になってしまったプランタガネットさん、頭はよくないけれど心が純粋で美しいものが好きな奥さんのことりさん、もう百年も生きてきた賢い木の人形のトチー、そしてだれからも愛される小さな男の子のりんごちゃん。四人は仲のいい家族として二人の女の子の子ども部屋で暮らしています。 人形たちは、住みごこちのいい人形の家がほしいと願います(人形は人間に何かをさせることはできず、ただ願うだけなのです―子どもと大人の関係がそうであるように)。そしてその願いが二人の女の子に通じて、すばらしい人形の家が手に入ります。ところが同時に、いじわるで高慢ちきな高価な人形マーチペーンが現れて、一家の暮らしはめちゃくちゃになってしまうのです…。 たとえすぐにかなわなくても、願うことをやめてはいけないというトチー。マーチペーンにそそのかされて燃えてしまいそうになったりんごちゃんを、身を投げだして救うことりさん。人形たちの姿の中に、本当に価値あることは何か、が描きだされています。 ことりさんはセルロイドでできていたので、あっというまに燃えてしまいました。「だれかがちゃんとしてくれるわ」と単純に心から信じていたことりさんの信頼は、報いられませんでした。けれども皆の願いは最後には通じ、マーチペーンは去って行きます。トチーはプランタガネットさんに語りかけます―「私たち、幸せになっていかなくちゃ。ことりさんも幸せだったのよ。ああすずにはいられなかったんですもの」 『ふしぎをのせたアリエル号』(ケネディ作/中川千尋訳/福武書店刊)には、みなし子の女の子エイミイとその人形のキャプテンが登場します。エイミイにとってキャプテンは、この世で一番大切なものでした。寝てもさめても一緒に暮らし、本を読んであげているうちに、ある日キャプテンは本物の人間になります。そして、キャプテンと一時別れ別れになった悲しみのため、反対に人形になってしまったエイミイをつれて、キャプテンは冒険にでかけます。 キャプテンの船アリエル号には、さまざまな「もと人形」がのりくんでいます。聖書を読んでもらって本物になった下着でできた人形のステテコ、マザーグースを聞いて育った(?)船員のぬいぐるみの動物たち、それから腹黒い裏切り者のアヒル…。人間だけが出てくるお話とはひと味違った、わくわくするようなお話を読み進んでいくうちに、やはり、本当の愛情や勇気とは何か、といったことを、ふと考えさせられてします、読みごたえのある一冊です。(上村令)
福武書店「子どもの本通信」第16号 1990.12.10
テキストファイル化富田真珠子 |
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